過去小説置き場

□君が初めて笑った日
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「今日からこの子が君達の仲間になる子ですよ」

軽く背を押され、先生の後ろに隠れるように身を縮込ませていた『それ』はよろよろと覚束ない足取りで俺達の前に歩み出る。

『それ』の姿を見た途端、教室中の生徒達は皆一様に驚きを隠せないようだった。

かくいう俺も、『それ』の姿を見た時はこの世に存在することのない人外なる存在を見ているような目つきだったに違いないだろう。

何故なら『それ』は貧しい農村の子供のようなガリガリに痩せた体をし、その腕はまるで触れるだけで折れてしまうのではないかと思うほど細かった。

しかしその木の枝のように細い腕の中には、子供が持つには些か大きすぎるのではと思うほどの刀がお守り代わりかのように大事そうに抱えられてあった。

それだけでも普通の子供とは違う存在を醸し出していたのに更に『それ』の容姿がその異端さを増強させていた。

『それ』の髪は老人のように白く、だがそれにしては毛はキラキラとした光彩を放っており、それが銀髪だとういうことに気づくのに僅かばかり遅れた。

そして瞳の色もまた、色素の薄そうな赤茶色の瞳だった。

その姿に興味を示す子や、不思議がる子。または不気味がる子と反応は様々だったが、俺はその姿よりも『それ』が浮かべる顔に目を引いた。

『それ』の青白い顔には一切の感情が映し出されることはなく、ただ死んだような目で静かに俺達を見据えていた。





――何故、あんな目をしていたんだ……?





『それ』が俺達の視線から逃れるかのように自分の席についてからも、俺の脳内にはそんな考えだけ残っていた。









『それ』と出会ってから数日後。

松陽先生が言うに、『それ』の名前は『銀時』というそうだ。

皆仲良くするように、と言われても教室の奴等が『それ』と言葉を交わすことはなかった。言葉だけではない。視線すら合わすことがなかったのは決して奴等が『それ』を気味悪がり、畏怖し遠ざけていたからではない。

『それ』がまるで俺達と関わるのを拒絶するような瞳で睨み据えていたからだ。

けれど俺は『それ』の暗く澱んだ瞳がどこか寂しく、悲しみを含んだ瞳に見えた。
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