過去小説置き場

□約束だ
1ページ/4ページ





――バシャ


月夜の下。
冷たい川から這い上がる銀時は、痛む腹と腕を庇いながら人気のない路地裏の片隅へと足を運ぶ。

毒を盛られた体はやけにフラフラして、壁にもたれ掛かりながらそのままズルズルと座り込む。



「……ハァ、こりゃあ……マジでヤベェかもな……」



朦朧とする意識の中で銀時はあの親父の顔を思い起こす。
あのダメ親父が必死に頼んできたあの顔が……。



――ズキリッ



「ッ……」


じんわりと腹や腕から流れ落ちた鮮血が、川で湿った衣服の水滴と共に地面に赤い水溜まりを作る。



「ったく、……こんなところでへばってられるかよ」


銀時は痛みに響く体を堪えながら、ゆっくりと立ち上がる。




――約束……守んねーと




一番出血の酷い腹部に手を当てながら銀時が歩き出そうとした時、背後の路地裏からザッザッと砂利を踏みつける音が聞こえた。

その音に反射的に振り返り、暗がりの中近付いてくる黒い影に目を凝らす。



(まさかもう追っ手が来たのか……ッ)



今の銀時は武器になる物を何一つ持っていなかった。
己の愛用だった木刀も川に落ちた時に何処かへ流れていってしまった。

徐々に迫る影に銀時は歯噛みしながら身構える。
が、



「…………え?」


細い路地裏の僅かな影の隙間から、月明かりに照らされて見覚えのある黒い衣服が現れる。
その人物の口元にはまるで暗闇にさ迷う蛍のような光を放つ煙草をくわえながら。



「ひ、土方……」


己の愛する人をその目で捉えると、銀時の口から自然とその男の名が零れる。
それに土方は同じく銀時を視界に捉えると、驚いたように声を上げた。



「おまっ……、銀時か!?
どうしたんだッ、その怪我!」


全身血だらけで立つ銀時に土方は慌てて駆け寄る。
その瞬間銀時の体から力が抜けると同時に意識もぷつりと途絶えた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ