過去小説置き場

□奪いたい、テメエの全てを……
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パチン、パチンと誰もいなくなった校舎の資料室に、ホッチキスで紙をとめる音だけが聞こえる。

静寂が資料室に広まる中、夕暮れになった閑寂な空に烏が一羽、緋色の空に鳴き声を上げながら飛び去っていく。

「おい、銀八ー。資料全部片付けたぜ」

「ありがと、多串君。てか学校では先生って呼べって言ってるだろうが、多串君」

「だったらまずその多串君って呼び方止めろ!……それに別にいいだろ、もう校舎には誰もいねえんだから」

そう呟き持っていた大量の資料を銀八と呼ばれた駄目教師の前に置いた。

それに「サンキュー」と返しながら銀八は口にしていた芯の短くなった煙草を灰皿へと押し付けた。

「一応俺とお前は先生と生徒って関係を忘れるなよ、土方」

「けど銀八、俺等一応付き合ってるんだけど……?」

銀八は座っていたボロい椅子から立ち上がり、言葉を紡ぐ多串――土方に「待った」と言うように手で制する。

「それは学校の外でのな」

「……納得いかねえよ」

ムスッとする土方にポンポンと頭を叩き、銀八はクスリと一笑した。

「まあ、後片付けすんだら一緒にいてやるからよ。先に俺ん家行ってな」

チャリとなんの飾りも付いていない銀色の鍵を土方の手に握らせる。

その言葉と行動に何を意図したか分かった土方は、ニヤリとその端正な顔に笑みを浮かべた。

「分かった、待ってるぜ。けどその前に……」

鍵をポケットに仕舞い、土方は銀八の顎を引き寄せ唇にキスを落とそうとするが。

バシッと何かで頭を叩かれるのを感じて、その行為を止めた。

「だ〜から学校じゃ駄目って言ってるだろうが。お前は万年発情期の猫か」

「いてて、猫はアンタの方が似合ってるぜ。ネコだけに」

頭を押さえながら言う土方の頭に更に何か――資料が落とされる。

「上手くねーんだよ、ガキ」

「いいから早く行けっての」と呟きながら手をヒラヒラと振る銀八に、「分かったよ」と鞄を持ち上げながら資料室から出て行こうとする土方。

「待ってるからな」

「分かったから早く行けっての」

その言葉を聞いてから、土方は資料室を退出した。

その場で一人残された銀八は、一息ついてから後片付けをしようと机に手を伸ばす。

するとガタリと資料室の扉が開く音がした。
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