長編小説
□時を越え巡り合うは我が師 〜四章〜
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まさか、こんな事が自分の知らない所で起きていようとは。
長い黒髪が歩を進める度に頬を擽る。
それが普段の自分でも邪魔だと思うが、今日は一段と鬱陶しくて仕方ない。
だがそんな些細な事に構っていられる程、男はその痩身の内にある心に余裕などなかった。
まさに水面下での怪しい動きとはこの事だ。
奴等が不穏な動きをしているという情報を聞きつけ、最近の攘夷活動を自粛し調査の方に徹していたらまさか有り得ない事実が判明した。
けれどこれはまだ不明な部分もあり、事実だと断定するには情報が足らなさすぎる。
……いや、ただ信じられないのだと心の底から強く思っているのかもしれない。
もしこの事が事実なら歓喜と絶望の二つの相容れない感情が交差し、混乱のあまり心が壊れてしまうかもしれないからだ。
特にあの二人、隻眼の獣と銀色の獣は。
かくいう自分も動揺を隠しきれないでいる。
だが、兎に角早くこの事を二人に知らせなくては。
手遅れになる前に、早く、早く。