【月下に咲く白銀】

□一章
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薄い液晶テレビから流れるニュースを目にして土方は眉を寄せた。
映像の中でリポーターの女性が事件現場らしき場所から黙々と事件のあらましを話すのを聞いていると、その淡々とした言い方にはあまりいい気分がしない。
別に特別に演技をしてでも大事のように振舞う必要はないが、もう少し感情を込めて言えないのかと思う事が時々ある。
けれどこのリポーターがこうも感情を表さない理由を知らない訳でもない。
常にどこかで必ず一件は起こる事件、それを毎日毎日ニュースとして報道していれば嫌でも視聴者も、報道する側も飽きてしまうだろう。
例えそれがいつ自分の身に起こる事か分からなくても、その時にならない限り人間は興味を失せてしまう。
その事実が土方にはやるせない事この上なかった。

「また吸血鬼ですかい?」
「見りゃ分かるだろ」

休憩室のテレビを眺めていた土方の背後からした声に条件反射で答えた。
気配が床を蹴りながら土方の隣に移動する。
フワリと鼻腔を掠める匂いは珈琲独特の苦味のある香り。
隣の男に視線を向ければクリープをたっぷり入れたカーキー色の珈琲を片手にテレビを眺める沖田が立っていた。

「しかし一向に減りやせんねぃ。吸血鬼の犯罪が」

言ってカップの淵に口を付け啜る沖田の瞳は暗い。
土方はそれに仕方ねェだろ、と冷たく返答する事しかできなかった。

「吸血鬼は突然変異種。数こそは少ないが力も治癒能力も強い。おまけに血を飲まなきゃ禁断症状が出るぐらいだ。人を襲う事件があったって不思議じゃない」
「しかしですねぃ……いくら俺たちが取り締まっても全然犯罪が減らないんじゃ、世間がどう思うか……」
「こればっかりはお偉いさんが原因を究明してくれるまで待つしかない。だからそれまで一般市民を守るのが俺たちの仕事だ。……どう思われようがな」
「へーい」

素直に納得をしていない沖田の返事に土方は重く溜め息を吐いた。
沖田の性格上土方の言う事を素直に聞かない節があるが、仕事に関しては本人のいい加減な性格にしてはちゃんとやっているのであまり大きく文句は言えない。
それもこれも土方たちの上司の近藤を慕う意思故だろう。
土方は傍の椅子の背もたれに掛けていた刀と黒いコートを手にすると、それを翻しながら羽織る。
沖田がどこへいくンですかい、と分かりきった事を問うてくるので、土方は眉間に皺を寄せぶっきらぼうに答えた。

「決まってんだろ、見回りだ。てめえもサボってねえでさっさと仕事しろ」

言って土方は休憩室を後にした。
部屋に残された沖田の鼻には己の入れた珈琲と土方が終始吸っていた煙草の残り香が部屋の中を満たしていた。
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