短編小説

□恋愛事情回路
2ページ/2ページ








「・・・銀時、銀時?」

時刻は同じく深夜。
金時は隣でカウンターに突っ伏して眠る銀時を起こそうと揺する。
しかし強めに揺すっても一向に起きる気配のない銀時に、軽くため息を吐く。
店主がカウンター越しから銀時を覗き見て、困ったように笑う。

「あー、こりゃ銀さん酔いつぶれちゃったみたいだね」
「すまねえな、親父。今すぐコイツたたき起こすから」

仕方ないとばかりに拳を握りげんこつ一発落とそうと構える金時に、慌てて店主が金時を止める。

「いいよいいよ。仕方ないから二階の部屋まで銀さん運んで来れないかな?今日はたくさん飲んでもらったからお礼に二階使っていいよ」
「お、いいのかい?」
「ああ」

人のいい笑顔をした店主だと思っていたが、本当に心から人に良くする事ができる人物なのだと金時は思った。
そして店主に言われた通り銀時の腕を肩に乗せ、支えるようにして二階の一室に向かった。
襖を開くとあらかじめ二人が来る事が分かっていたように二組の布団が綺麗に敷かれてあり、その片方に銀時を若干乱暴に寝かせた。

「んん・・・」

火照った体に冷たい布団の感触が心地いいのだろう。
軽く布団を噛み締めるように寝返りを打つ銀時を見て、金時は己も銀時の側に腰掛ける。

(それにしても気持ちよさそうに寝やがって・・・)

カラクリは本来食事も睡眠も取らない。
起動するのに必要な物ではないからだ。
必要だとすれば少々のオイルとメンテナンスのみ。
それが人間にとって食事と睡眠だろうから基本的な事は同じなのかもしれない。
けれど人間とカラクリはまったく違うモノとして成り立っている。

(俺とコイツのように・・・)

また一つ、寝返りを打った。
今度は金時の方に体を向けて。
金時の蒼い空色の瞳は横になる銀時の体を観察するように頭のてっぺんから足の先までゆっくりと瞳を転がす。
銀時の朱に染まった頬。
僅かに乱れる呼吸。
汗ばんだ胸元。
その一つ一つを目で確認していけばふと浮かんだ情景。
それは金時が人間の女を抱いた時に反応する女達の淫らな体や反応。
酷似しているそれらが金時の胸の中心でドクンと脈打つ気配を感じた。
それに気づいているのかいないのか。
金時は狂ったように嬌声を上げる女達との情事を思い出しながら、思わず動いたその手で銀時の熱い頬に触れた。

「んっ・・・」

一瞬冷たさに銀時が反応し身を捩ったが、直ぐに気持ちよさげに金時の手に頬をすり寄せた。

「・・・」

銀時の行動にまた胸が高鳴った気配を感じ取った金時だが、その気配に気づかないフリをしてもう片方の手で銀時の顎を捉え何の躊躇もなくその唇に己の唇を落とした。

「ふ・・・んん・・・」

銀時の苦しそうな息遣いが金時の聴覚を携わる機器に届いた。
瞼を閉じる銀時の顔を金時は無表情で見つめ、次に起こした行動は己の舌を銀時の口内に入れる事だった。
半開きになった銀時の口は簡単に舌の侵入を許し、絡みつく金時の舌を最初は拒んだが次第に絆されされるがままに舌を愛撫される。

「んん、・・・ふっ・・・ああ」

抜けるような吐息を金時が肌に受けると、今度は無防備に開いた銀時の胸を手で弄り始めた。
これには銀時も何かを感じた顔をして一瞬眉を寄せた。
無意識な抵抗なのか銀時の手が宙を彷徨いやがて金時の手にたどり着くと力の入らない手で金時の手を剥がそうとするが、そんな抵抗など金時には無意味で、あっさりと抵抗は封じられ続きを始めるように金時の手が銀時の立ち始めたばかりの突起を弄り始める。
最初は軽く摘み、次は指の腹で転がしたまに指で弾く。
その行為と同時進行で口の方も愛撫を続行。

「んあ、んん・・・あっ」

キスの合間に漏れでる銀時の甘い声を受けながら、遂には銀時の下肢に手を伸ばす金時。
だがこの優しくも甘い情事を続けられたのもここまでだった。

「はっ・・・あ・・・あ?」

長いキスや胸への愛撫に眠っている者が流石に気づかないはずがない。
金時の行為にようやく目が覚めた銀時は目の前にある己と似た男の顔に惚けていたが、やっと自分の置かれた状況に気づき目を見開いた。

「何してのお前ええええええええええ!!」

ドンッと乱暴に金時の胸を押し返し蛇のようにズリズリと後方に後ずさる。

「まったく気配を感じなかった・・・」
「そりゃカラクリだからな」
「そうか・・・じゃなくて!!」

銀時の混乱した呟きに冷静に答える金時に納得しかけた銀時は慌てて話を戻す。

「お前自分が何してたか分かってんの!?」
「何って・・・ただ触ってただけだろう?」

事も無げに言う金時に「そうじゃなくて!」と伝わらない己の怒りにもどかしさを痛烈に感じながら、銀時は言い含めるように口を開く。

「いいか?お前がやろうとしていたのは強姦だ。犯罪だ。てかなんでこんなオッサン相手に盛ってるんだよ!」
「それは・・・」

金時は怒りで頬を紅潮させて睨んでくる銀時を見つめながら、己がしようとしていた事に今更になって疑問が頭をもたげてくる。

「・・・なんでだっけ?」
「はああああああああああ!?」

金時のハッキリしない答えに銀時は更に怒りと困惑の色を濃くする。

(なんで俺コイツに盛ったんだっけ・・・?)

困惑をしているのは銀時だけではなく、金時も同じだった。
自然と落ちた視線を布団に押し付けぐるぐると己がとった行動を考えた。
が、答えがそう簡単に出てくる訳でもなく金時は散り散りになって浮かんでいる己の最近の想いを、目の前にいる男に打ち明けたくなった。

「最近よお、なんだかお前の事考えると胸のこの辺りがザワザワするんだよな」
「・・・へ?」

己の胸の中心に軽く触れながらポツリポツリと呟く金時。
突然の金時の告白に素っ頓狂な声を上げてしまった銀時はいつになく真面目な金時の様子に目を瞬きジッと金時を見つめる。

「お前と会うと胸がざわついてざわついて仕方ねえ。お前に会えない時はココに穴が空いたように虚しい・・・いや、寂しい・・・のか?だからお前が行きそうな所に先回りしていつもお前が来るのを待ってた」
「おい・・・」

さりげなくストーカー行為に近い物をされていたと分かった銀時は若干引き気味に冷や汗を流したが、金時の真剣な面持ちに直ぐに表情を変えた。

「いったいどうなってんだ、俺は。まさか壊れたのか?」
「なあ・・・それってもしかしてさ」

銀時の声に俯いていた顔を上げ銀時に向き直る。
見つめる彼の顔はいったて普段通りで、しかし何か惹かれる物があった。
そんな金時に銀時はいつも通りの声でこう言った。

「お前、もしかして俺の事好きなんじゃねえの?」

(・・・は?)

銀時の衝撃の言葉に金時は頭をカナヅチで殴られたような錯覚を感じた。
まさかこの自分がこの男に限って好いているなどありえないと思っていたからだ。

「まさか・・・そんな訳ねえ」
「じゃあなんでさっき俺を襲おうとしたんだよ。まさかそこらの別嬪の女と間違えたわけじゃねえよな?」

それには金時も返答ができなかった。
銀時の言った通り、女でもない、まして男の銀時にカラクリの自分が欲情した理由が分からなかったから。
そんな金時の困惑にカラカラと笑いながら銀時は金時に近づくと優しく金色の髪を撫でた。
それに存在しないはずの鼓動がドクンと鳴った気がする金時。
銀時は柔らかく微笑み金時にこう言った。

「カラクリだって人間と同じなんだよ。怒りたい時は怒って、泣きたい時は泣く。だから好きな奴ができたっていいんじゃねえのか?だってお前には心があるんだからよ」
「心がある?俺にか?」
「ああ、どんなものにも心は宿る。俺はそう教えられたね」

(心・・・)

胸に響く鼓動のようなあの感覚は、あるはずがないと思っていた心なのか。
金時は知らず知らず自分はカラクリだから。
だから心など存在しない、人間とは違う存在だと思い込んでいた事に気づいた。
誰かを好きになるなどありえないと思っていたが、この男を前にして気持ちが変わった。
この男の事が好き、愛してる、欲しい。
様々な感情が次第に生まれた事に気づかないフリをして、でもこの男――銀時を目の前にすると抑えられない欲求が己の胸の奥を掠めるのだと気づいた。

(ああ・・・俺はコイツが好きなんだ)

改めて気付かされた想いを噛み締めるように金時は静かに瞼を伏せた。

「・・・ま、銀さんがいい事言って感傷に浸ってるとこ悪いが俺の事は諦めてくれよ?俺みたいないい男取られたら世間のいい女達が泣くからな。特に結野アナとか!」

得意げに自慢する銀時の事など無視して、金時はすっと瞼を開く。

(俺がお前の事を好きならあとは簡単だ)

金時は銀時に見られないよう小さく口元に弧を描いた。
その顔は心なしか吹っ切れたように清々しい。
それに気づいていない銀時は「さーてと、飲み直し飲み直し」と襖に手をかけ外に出ようとする所。
それを素早く背後から銀時を拘束し、馴れた手つきで布団に押し倒した。

「・・・へ?」

あっという間の出来事に状況を飲み込めない銀時の顔を上から覗き込む金時。
その顔にはいつも通りの余裕ありの表情だ。

「俺にあそこまで言っといて諦めろだなんてそれはないんじゃねえのか?銀時」

両手を頭上に縫い付け身動き一つさせないようにしてから、金時はニヤリと笑いかける。
そのどこか含みのある笑いに銀時が凍りつくが、負けじと自由な口で反論する。

「てめっ、俺の事は諦めろってつっただろうが!!どけ!!」
「嫌だね。俺は俺の欲しい物を手に入れる事にするぜ」
「何寝ぼけた事抜かして!人が優しくしてやったのにつけあがりやがって」
「よく喋る口だなー。ちょっと黙っとけ」
「何をっ・・・むぐ!」

言葉途中で口を塞がれてしまった銀時。
塞いだのはもちろん金時でしかも唇でだ。
口内は荒らさないが、長い唇の戒めから酸欠状態な銀時はギュッ目を閉じ喉の奥で鳴る声にならない声で苦しいと意思表示を示す。
そこでようやく唇から解放された銀時は息も絶え絶えに金時を睨みつける。
その目尻にはうっすらと涙が。

「てめえ・・・」
「銀時が悪いんだぜ?俺をその気にさせたんだからよ」

言いながら金時の手が銀時の大事な所に触れた。

「!?」

喫驚する銀時に金時は不敵に笑ってみせる。

「イイ声で啼いてくれよ?兄弟」

その夜、銀時の悲鳴ともとれない声が夜空に響いた。







END
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ