短編小説

□道具
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『白夜叉を生きて捕えよ。そして私が可愛がれるように調教しておやり』

ある日天導衆の一人から呼ばれ直々に下された命。
朧は格子の向こうで繰り返される情事に目を配らせながら、数日前の命令を遂行した。
細かい内容は聞かなかったが、天導衆の一人であるその男には以前から気に入った若い男を使って情事に関わる“遊び”が趣味という癖があったと聞く。
今まで数々の若い男達が彼の餌食になり最後はボロ雑巾のように捨てられた。
その次の獲物が銀時なのだという事も自ずと理解した。
かつて攘夷戦争の時に対立し、死闘を繰り広げた敵を捕らえ、今目の前で野蛮な男達に組み敷かれ体を開いているという行為を目にしても、朧の心には何の感情も生まれない。
ただただ男達のモノを受け入れ声が枯れるほどの嬌声を上げている銀時を見つめるだけ。
朧がこの場を動かないのは男達が間違って銀時を殺さないように見張る事と、あらかじめ射っておいた媚薬が切れたら足すため。
媚薬の量も朧でなければ男達が大量に射ち間違って死なれてしまうのを防ぐ為でもある。
全ては命令の為の行動。
それ以外は何もない。

「うわあああッ」

突如悲鳴が轟いた。
朧がハッと顔を上げれば男の一人が股を押さえ醜く床を転げ回っている。
その周りは血が飛び散り、点々と床に続く血の先には銀時が口唇を真っ赤に染めてニヤリと歯を剥いて笑っていた。
銀時が男の一物を噛み切ったと分かったのは直ぐのこと。

「コイツッ・・・!」
「ナメた真似を!」

口々に怒声が男達から上がりその内の何人かが銀時の顔や腹部を蹴り始めた。
時折くぐもった声が漏れ、疲弊した体では抵抗する事もできない。
一つため息をついて朧は牢に入ると「やめろ」と男達を制止する。
不満の声が上がったが、朧は鋭い眼光で男達を睨む。
その視線に男達は射竦められたように視線を下に下ろす。

「この男は上への献上品だ。あまり傷をつけるな」

朧の有無を言わさない言葉に男達はそれでも何か言いたげな顔をする。
それに朧はまた一つ息を零すと、懐から媚薬入りの注射器を取り出し銀時の腕にそれを射ち込む。
ビクンとそれに反応を返した銀時の体が次第に紅潮を見せる。
今度は意識が飛ぶか飛ばないかギリギリの量である事を知っているのは銀時から一歩離れ立ち尽くす朧だけ。

「今度は口を使わせるな、…また噛み切られたくなかったらな」
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