短編小説

□乙女心のジェラシー
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「なんだ、そんな事だったのか。なら早く言わぬか」

頬を大きく腫らしながら桂は長椅子に座り出された茶を飲んだ。
新八から事情を聞きようやく落ち着きを見せ始める桂。
礼儀正しく茶を啜る動作に頬杖をつき組んだ足を苛々と揺する銀時は眉を寄せた。

「テメエが人の話を聞く前に暴走したんだろうが」

銀時の悪態にも桂は動じずに茶を飲み干すと、コトリと音を立てて湯呑を机に置いた。
それから暫し顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。
黙っていれば品が良さそうに見えるのにもったいない。
そう胸中銀時が呟く。
男にしては長い睫毛を瞬かせ桂は何かを決めたように銀時を見た。
ドキリと何故か桂の顔を真正面で見つめる銀時の心臓が鳴った。
……いやいや、何ドキドキしてんの?
普段から見慣れている桂の顔は良く見れば端正で、美形の部類に入るだろう。
そんな彼の顔を見た途端鼓動が高鳴るなど、これは女になってしまったために起こった生理的現象だ。
だから桂本人にときめいた訳ではない、断じて。

「ならば今のうちにお前とデートがしたい」
「へ?」
「聞こえなかったか?デートがしたいと言ったのだ」
「……いや、聞こえたけどよ……なんか嫌だ」

銀時は素で思った通りに拒否した。
いくら自分が今は女でも桂と並んで歩き、楽しそうにイチャイチャするなど考えただけでも気持ち悪い。
しかしこれで引く桂ではなかった。

「何故だ!男の姿では嫌がると思い、今まで我慢してきたのだ。女子なら堂々とデートできるだろう?こんなチャンスもうないかもしれない!今の内にデートしておきたいと思うのは当たり前ではないか!」
「だからなんでそれに俺が付き合わなくちゃならねェんだよ。絶対嫌だ」
「銀時!俺はお前がデートしてくれるまで引かんぞ」
「……あのなぁ、俺は……」

銀時がめんどくさそうに頭を掻いた時、己の横に座っていた新八が意外な発言をした。

「いいじゃないですか。デートのひとつやふたつ付き合ってあげれば」
「……は?」

銀時が驚き首を横に向ければ新八の明るい笑顔が視界に飛び込んできた。
それはもうキラキラとしたエフェクトが映るくらいに。

「新八……テメエ、厄介事押し付けてんじゃ……」
「銀さん」

次の瞬間、満面の笑みを消し困ったように笑う新八の顔が瞳に映った。
その表情はただ単に桂の扱いに困るという雰囲気を宿すものとは違う、寧ろ銀時に対して向けてくる感情だった。
それに銀時は戸惑い疑問符を浮かべ、目を瞬かせる。

「少しは自分の気持ちに素直になった方がいいですよ」
「……へ?」

脳内に浮かんだ疑問符が更に増えた気がした。
銀時が新八の言葉の意味を考えあぐねていると、いつの間に傍にいたのか、桂が銀時の手を掴み「さあ、行くぞ」と気分上々に手を引かれ、銀時は引きずられるようにして万事屋を後にした。
残された新八と神楽はやれやれといった風に苦笑を浮かべるのだった。
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