過去小説置き場
□君が初めて笑った日
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「おいっ、降りてこいよ!」
太陽が僅かに西に傾きかけた正午頃。
高杉は寺子屋内の西に面する庭に生える木に向かって怒鳴るように声を上げる。
一見してみれば少年が何の変哲もない木に向かい叫ぶ奇妙な光景に見えるが、そうではないと高杉の傍らにいる桂は思う。
桂はふと高杉が見上げる木を眩しそうに目を細め仰ぎ見る。
青々と生い茂る枝葉の僅かな隙間から洩れる木洩れ日に、反射するようかのように輝く銀色が丁度高杉達の真上に居座る。
生える枝に寛ぐ様に腰を据え、幹に背を預けた状態でぶらんと片足を投げ出す『それ』は紛れもなく銀時であった。
銀時は下方でキャンキャンと犬の用に騒ぐ高杉を無視し、庭で走り回る子供達を何の感慨もなさそうに見つめていた。
そんな銀時の態度に高杉は青筋を立て、ついでいうなら眉をピクピク震わせながら怒りに任せて思いっきり銀時の居る木を蹴った。
「降りてこいって言ってんだろ!!」
力いっぱい蹴った割には大して揺らがない木はやはり樹齢云年は過ごした木だろう。
他の木より何倍も丈夫な分、その反動で高杉の足は先から体の芯まで電流が流れ込んでくるかのような衝撃が返ってきた。
「っ……!!!」
声にならない声で痛みを訴える高杉に桂は呆れたように目元に手を当て溜め息つく。
「まったく、馬鹿かお前は……」
「五月蝿ぇッ、ヅラ!!!」
「ヅラじゃない、桂だ!!」
若干涙目で喚く高杉に、桂はお決まりの台詞を返す。
そんなやり取りが自分の真下で行われているにも拘らず、依然と静謐に子供達を眺め続ける銀時。
それに獰猛な獣のような睨みを(涙目で)利かせながら高杉は悠然と枝に居座り続ける銀時に向かって叫ぶ。
「お前よォ!!何でいつもそんなとこにいるんだよ!!」
高杉の渾身の叫びに僅かに銀時の顔が高杉を見下ろす。