長編小説

□白き華は朱に染まる 〜帰来〜
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「ここか…」

土方達の目の前に佇むのは古びた一軒の宿。
一見したらやっているのかいないのか分からないほどのボロボロな宿だが、玄関横に備えられている提灯には火が灯っているのが、そこに人がいる事を証明している。

時刻は朧月の出た夜。

ここに銀時及び銀髪の男と高杉がいると情報が入ったのはつい先程。
新八達の情報のおかげで怪しげな宿虱潰しに探した結果、怪しげな客が泊まっていると分かったのがこの宿だ。
しかし何故新八達がここまで詳しい情報を知っていたのか、そんな疑問が頭の片隅に残るがそんな疑問を土方は振り払う。



今、自分達が成すべき事は銀時の奪還だ。



たとえこの少年達がどのような経緯でそれを知ろうと、今はそんな事は関係ない。







そう思う土方は何故ここまでこの少年と少女と、そして銀時を助けたいと思うのか。
それは勿論市民を護る義務があるのも理由だ。

だが、土方にはもっと別の思いがあった。
あの伊東の時の借りを、体を張って助けてくれた彼を、今度は自分が彼等を助けたいと思っていたからだ。
それは土方だけでなく近藤、沖田も同じ思いだ。だからこそこの子達の為にも、あの男のためにも、救ってやらねばならないのだ。

そう心の奥で思う土方と同じく、新八も神楽も同じ思いだった。

銀時はいつでもどんな時でも自分達を護ってくれた。
だからこそ、今度は自分達が銀時を護ってやりたいと、そう思っていた。

「銀ちゃん……今助けに行くアルからね」

神楽の真っ直ぐな瞳が壁のように立ちはだかる宿を見据える。
だがその瞳は宿ではなく、その先にいる愛しい人に向けられているように土方は見えた。

それから土方は目を伏せ、一呼吸おき再び目を開くと刀を抜き取る。



そして、








「行くぞオォォォォォォォォッ!!!」


掛け声と同時に土方、新八、神楽、近藤、沖田は宿の中へと入って行った。
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