「リョーマくん帰ろ?」
部活が終わり部室へ戻ろうとした時、先輩がやってきたんだ。
俺達は付き合って1ヶ月立つ恋人同士。
不二先輩や菊丸先輩と同じクラスの先輩とは委員会が一緒で、話すようになった。
年上なのに年下っぽい可愛い人。
所謂俺の一目惚れだった。
「先輩、着替えてくるからちょっと待ってて」
俺は急いで着替え始めた。
「おチビー一緒に帰るなんて羨ましすぎー」
「まあね」
菊丸先輩たちに何だか優越感も感じていた。
すぐに着替えを済ませて先輩の元へ行くと、ほんわかした笑顔で迎えてくれた。
この人の笑顔を見ると、今日一日の疲れなんて吹っ飛んでしまうほどだった。
「部活おつかれさま!」
「ども…」
何だか仕事帰りの夫に尽くす妻みたいで、俺は無意識に顔を赤くしてしまった。
そっと手を差し出すとおずおずと俺の手を握ってくる。
すごく愛しい。そう思えたのは初めてだった。
女の子を感じさせる小さな手に、最初は強く握ったら折れてしまうんじゃないかとか、手を繋ぐことだけなのに凄く慎重だったんだ。
今だって俺の意識は手に集中してしまっている。
男がこんなことくらいで赤くなってどうすんだって感じだけど、こればかりは本当にどうしようもない。
「リョーマくんの手、大きいよね」
そう言って俺の手をまじまじと見る先輩。
「俺だって男なんスから。背だってそのうち先輩を追い越すし」
「あたしなんてすぐに追い越されちゃうよ。それにリョーマくんは小さくてもかっこいいよ?」
先輩はずるい。何でいつも嬉しいことを言ってくれるんだろう。 先輩の言葉の一言一言に一喜一憂してしまう。
「ちょっと公園寄ってかないスか?」
「うん!」
少しでも多くの時間を過ごしたい。先輩と付き合ってから初めてこんなことを思った。
人気のない月明かりのさす公園のベンチに俺達は座った。
手は繋いだまま、俺達は他愛もない話をした。
先輩がこっちを向いて話すたびに何だかシャンプーのような甘い香りがして、俺の心臓はドキドキいっていた。
意外にも距離が結構近くて、手を伸ばさなくてもすぐに抱き締められる。
「リョーマくん……」
そしたら小さな声が耳元で聞こえたんだ。だから俺もこう言った。
「俺も好き」
恥ずかしそうに俺の制服の裾をぎゅっと掴んで胸元に顔を埋めている先輩が可愛くて、俺はそっと先輩を離した。
でもまだ近い距離を保って、俺はゆっくり顔を近付けた。
先輩はそれをわかったようにゆっくりと目を瞑る。
唇が今にも触れそうなとこで一瞬止まり、息を止めてそのままゆっくりと口付けた。
kissまでの瞬間〜リョーマver〜