+六道骸×雲雀恭弥+

□+声に出して+
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1.



「恭弥、愛してますよ」

「…………」

 昼休みの応接室。
 グラウンドからにぎやか声が響く中、雲雀は骸のキザったらしい笑顔を横目にため息をついた。

「毎回毎回……、イタリア人なんだか知らないけどさ、……いい加減にして欲しいんだけど」

「おや、気に入りませんでした?では、好きですよ」

 悪びれもせず二の句を繋ぐ男に、雲雀は苛立ちながら執務机を指でトントンと叩いた。

「だから、やめてほしいって聞こえてる?」

 雲雀のうんざりしたような声に、骸は不服そうに首を傾ける。

「言葉にしなくては伝わらないでしょう?」

「伝わらなくていい。むしろ、知りたくない」

「そう言わず、聞いてください。僕は────」

 トンファーが閃いた。

 骸の喉元を一閃が走る。
 咄嗟に骸が上体を後ろに傾けなければ、確実にキマッていた。

「ホント、いい加減にしなよ」

 トーンの低い声が応接室に響いた。
 トンファーを振り抜いたまま、雲雀は骸を睨み付ける。

「何が問題なんです?僕は君に真摯な想いを伝えているだけですよ」

「その頭に問題があるんだよ。第一、僕は男だよ?」

「クフフ……愛に性別など関係ありません」

 骸は演技のような仕草で、両腕を広げてみせた。

「ホントに、頭おかしいんじゃないの?」

 雲雀は鼻を鳴らして、ガチャンとトンファーを戻す。

「会うたび会うたび、歯の浮くような台詞を言って……風紀委員たちがどう思うか────」

「そんな、君ともあろう人が他人の視線を気にするのですか?」

 揶揄してくる骸に、雲雀の目尻がつり上がる。

「僕を馬鹿にしてるの?」

 返答次第では即座に戦闘へ移るというように、雲雀は先程仕舞った仕込みトンファーに手をかける。
 そんな中、骸は笑みを浮かべたまま、考え込むように自分の口元に指を添えた。

 雲雀が腹を立てているのは、骸の言葉ではなく、骸が場所をわきまえないこと。
 つまり、今のところ、雲雀は骸の言葉に対して、好きも嫌いも判断を下していないことになる。
 嫌いなものには、はっきりと嫌いだというのが雲雀の性格。だから、雲雀は嫌がっていない────いや、そう考えるのは些か早計すぎるだろう。

 骸はしばらく悩んだ末、聞いてみることにした。

「君はどう思っているんです?」

「鬱陶しい」

 雲雀の即答に幾分傷ついた表情を作るが、骸も負けじと言葉を重ねる。

「それは、答えになってませんね」

 雲雀は目を細めて、骸を睨み付ける。
 雲雀の射抜く視線の前に晒されても、骸は浮かべた微笑を揺るがせない。

「僕が聞いているのは、僕の言葉に対する君の答えだ。聞かせてくださいよ、君の口から」

 雲雀は即答しようと口を開いた。

 けれど、開かれた口から、声が出ることはなかった。

「っ……!」

 言葉につまり、雲雀は苦渋に顔を歪める。

 しばらく骸は雲雀の様子を見ていた。
 よぎるように真剣な顔をした骸は、瞬く間に微笑みを浮かべる。

「では、宿題ですよ」

「……なにが?」

「また後日。僕が来たときに、答えを聞かせてください」

 俯きいてギリッと奥歯を噛みしめた雲雀は、拒否しようと顔を上げた。

 開かれた口からは、またも声が出ることはなかった。

 唇が重ねられている。


「宿題ですよ?」

 骸は雲雀の耳元で再び同じ台詞を囁いて、笑顔を向けた。
 突然のことに、雲雀は目を見開いたまま固まっている。
 骸は雲雀の頬に触れると、雲雀は弾かれたように視線を足元に落とした。
 黒髪に隠しきれない紅の差した肌が覗いている。

 また今度、そう呟き扉を開く骸を、雲雀は視線を向けずに見送った。

 扉が閉まり、応接室に雲雀一人が残された。

 そっと自分の唇を指先で触れる。

 薄れつつも確かに残る、他人の熱。
 指で触れるのとは全然違う感触。

 ただ一人しか踏み込むことのできない領域に、入ることを許したということ。

「………わかってるくせに」

 小さく呟きながら、雲雀は深い息を吐いた。


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