+ディーノ×雲雀恭弥+

□+時計の約束+
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「来年の今も、恭弥とこうして過ごしてーな」


 何色でもない、ただ純粋な言葉が落ちてきた。
 ディーノと雲雀は、のんびりとソファーに腰かけて、互いに寄り添うようにテレビを眺めていた。よく見ていたわけではなかったので、なんの番組かわからない。そして視線を、ひとつになる前の時計に目を移した。

 あと少しで、今年も終わる。

 雲雀が顔を上向けると、蛍光灯でも綺麗に光る金髪が飛び込んできた。そして、頭に乗っていたディーノの頬が離れていく。
 ただ、伸びをしようとしただけだとはわかっているけど。
 それが、惜しくて。何でも、手放すのが嫌で。
 雲雀は自分でも驚く言葉でディーノを引き留めた。


「……約束」


 唐突に飛び出した言葉に、ディーノは瞬きを繰り返す。
 今さら、何も言わなかったことにできなくなった雲雀は、続きの言葉を言いきった。


「約束、してあげる」


 語尾が軽くあがって、なんとなく自分の動揺をディーノにみせている気分になった。


「恭弥の約束か…」


 ディーノは重い言葉のように繰り返した。
 それもそのはず。束縛を嫌う雲雀は、絶対に自分を縛りつけるものをみとめたい。人を縛るために存在する約束などそのさいたるものだ。


「いや、いいよ」


 真剣な表情で悩んでいたディーノは、ガラリと雰囲気の変わる人懐っこい笑顔を向けた。


「────!」


 断られると思っていなかった雲雀は、目を見開いて瞬きを繰り返す。やがて、睨み付ける視線に変わった。


「なんか、とっても納得いかない。僕の約束じゃ不満なわけ?」


「いや、そうじゃなくて…」


 ディーノは、困ったようにわしわしと自分の頭をかきまぜた。
 雲雀は詰め寄るように、ディーノを睨む。
 まなじりをゆるめたディーノは、大人びた───―もう十分大人ではあるが、普段ではあまりみかけない顔をした。


「恭弥、それ、初めてする約束だろ?」


 雲雀は当たり前だというようにこくりと頷く。
 やっぱりなーとこぼしたディーノは気恥ずかしいように笑って、自分の右手と絡めている雲雀の指を自分の口元に引き寄せた。


「恭弥の初めての約束は、オレと永遠を誓うためにとっておいてくれよ」


 雲雀の左手。一番左端から二番目の指。そこに将来とどまる銀の指輪を夢見て、ディーノは唇を当てた。


「なっ───―」


 瞬く間に白い肌を赤く染めた雲雀は、何か言いたくても体がついていかないというようにパクパク口を開いた。


「だから、今は、約束はいらないよ」


 片目だけウインクして、真面目な空気をわざと壊すと、言葉を発せられるようになった雲雀が、ディーノを振り払うように左手を引っ込める。


「約束なんて、しないよ!」


「えっ、恭弥ぁ」


 そんなこというなよっと、甘く頬に口づけてくるディーノを鬱陶しそうに押しのけ、フンッと鼻を鳴らして、雲雀は横をむいた。
 それは、不機嫌になったからではない。ディーノはすぐに気づいた。


「そんなの、…もう決まってることなんだから!……わざわざ約束する必要、…ない、でしょ…」


 雲雀の唇が、堪えきれないようにほころんでいたから。
 少し現実から離れたような錯覚に、ディーノはポリポリと頬を掻くと、真っ黒瞳が流し目でディーノのことをみた。


「ああ、そうだな」


 誘われるままに、ディーノは雲雀を抱き寄せた。
 腕の中にいる愛しい恋人は、あくまで、それが当然という顔をしていたけれど───―
 ディーノは、夢かもしれないという考えを捨てきれず、雲雀に頬をつねってもらうのだった。


「って、痛え!?もういい、恭弥、十分だ!十分だから!!痛いって!」


 気づけば、一時重なった時計の針は、また離れ始めていた。

 もう一度、同じ場所に戻るために。
 何度でも、次の今を迎えるために。

Fin 

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