+六道骸×沢田綱吉+

□+セクハラ!?+
1ページ/3ページ



 綱吉は隠れていた。



 嘘だ。
 そう、何かの見間違いだ。


 綱吉は何度も、自分に言い聞かせる。


 疲れてるんだよ。
 最近、リボーンの特訓がきつくてさ。目がおかしくなってるんだ。




 今日は土曜日。
 せっかくの休日に、綱吉は学校に来ていた。
 それは補習を受けるため。
 悲しいことに、いくら勉強を頑張っても、点数に反映されない綱吉は、休日補習の常連となっている。


 綱吉の他に、山本も補習の常連となっていた。
 なぜか頭のいいはずの獄寺まで、補習に参加するために、休日を潰して学校に来ていた。
 獄寺曰く、先公より、俺の方が10代目の勉強を手伝えますだそうで、綱吉としては、まあ、賑やかな友達と一緒なら補習も少しは楽しくなるかなと、何も言わないことにした。







 結局……
 つまんない補習は、友達がいてもつまんなくて、ようやく終わった時には、全てのしがらみから自由になったような解放感に、自分が補習を受けに来るのはこの解放感のためなんじゃないかと思ってしまう。



 勉強も終わったことだし、ゲーセン行こうと誰かがいって、じゃあ、みんなでカーレースしようと三人は玄関に向かった。
 そこで、やっと綱吉は自分が携帯を机の中に忘れたことに気づいた。


 二人を待たせるのもなんだし、先にいっててよと、綱吉は一人校内に戻った。
 獄寺は忠犬のように綱吉のことを待つといったが、山本に引きずられ、ゲーセンに向かったはずだ。





 教室に戻って、自分の座っていた席を調べると、案の定携帯が置き去りにされていた。
 綱吉は自分のドジに苦笑しながら、教室を出ようとする。




 その時、見てはいけないものを見てしまった。




 その後ろはあまりにも特徴的だ。

 なぜか、頭の後ろにぴょんぴょんはねる髪が立っている。前から見ると、ジグザグの分け目があって、髪の手入れに無駄に時間がかかりそうだった。

 あの南国果実を連想させる髪型を好む人間は、少ない。つか、ほとんどいない。
 たった、二人だけ。
 好んでいるのは、元祖の方だろうけど。


 現実的に考えてみると、廊下にいるのはクロームって娘のはず。

 彼女もどういうわけかあの特殊な髪型をしている。

 でも、スカートを穿いてない…。
 いや、クロームって娘もズボンを穿くだろうけどさ。
 女子にしては背が高いし、肩幅広いし、あれは確実に男だ。
 男で、あの髪型といえば、一人しかいない。




 六道 骸。




 何で、骸が学校にいるんだよ!
 そりゃ、骸だって中学生なんだから、学校にいたっておかしくないよ?似合わないけど。
 でも、あいつは黒曜中の学生で、ここは並盛中。


 綱吉はもう一度、扉の隙間から廊下を見た。
 これだけみれば、もう見間違いでは片付けられない。


 えっと、学校内に不審者をみつけたときってどうすればいいんだっけ?
 先生に報告?いや、雲雀さんの所へいくべきかな?


 綱吉は骸に見つからないように、小さく屈み息を殺す。


 骸が廊下の端にいったら、応接室まで全力疾走しよう。


 そう思いながら、廊下の様子を窺った。


「あれ?」


 思わず、綱吉の口から声が漏れた。


 なにかを探すように、それでいてただぶらついているだけのように歩いていた骸が消え失せていた。


 なんだ、見間違いか。
 やっぱり、オレ、疲れてるの……。


「おや、ボンゴレ。こんなところにいましたか」


「!?」


 綱吉はびっくりした。
 飛び上がるほどびっくりするという言葉があるが、本当に体が飛び上がるとは思わなかった。
 それぐらいびっくりした。


「む、骸!なんでもっと普通に現れられないんだよ!」


「隠れているつもりで、全然隠れられていないボンゴレを驚かすためですよ」


 こいつ、性格悪い。
 てか、バレてたのかよ。


 綱吉はふて腐れながら骸のことを見た。


「で、どうしてお前がここにいるんだよ」


「僕は君に会いたいと思ってなんとなくここにきたら、君に会えた。クフフ、運命を感じませんか?」


「オレは、呪いを感じるよ」


 綱吉は深くため息をついた。


 クロームって娘の力でも使ってるんだろうな…。
 こんなやつに体を貸すなんて、あの娘も可哀想だな。


「呪い、そうかもしれませんね。僕の想いは呪いのように、君にふりかかる」


 なんだよ、想いって。


「お前、バカだろ?つか、そんな重たいものいらないから」


 そろそろ骸とのやりとりに疲れてきた、綱吉は骸を置いて帰ることにした。


 がしっ。


 綱吉の体が、動かなくなる。


「どこへいかれるんですか?」


「帰る。だから、その手を離せ」


 骸の手は、綱吉の右手首を掴んで離さない。


「せっかく会えたのに、態度が冷たくありませんか?」


「どうしてオレがお前を歓迎するんだよ?」


「僕に会えなくって寂しかったんでしょう?」


「………………」


 綱吉は、突っ込む気さえ起きなかった。


「聞きましたよ。僕が復讐者の牢獄にいってから、君は僕の心配をして夜も眠れなかったと」


 確かに心配はしたけどさ、どこをどう聞き間違ったら、そういう話になるんだろう?


 綱吉は、理解したいとは全く思わないが、一度骸の頭を見てみたいと思った。


「一人で言ってろ」


 綱吉は手首を掴む骸の指を引き剥がした。


「一人で言っていたら、怪しい人間ではありませんか」


 お前はすでに怪しい人間だ。そう罵ろうとした言葉は、口から出なかった。



 綱吉の体が骸の腕の中に閉じ込められた。



「な、な……」


「スキンシップですよ」


 目を白黒させる綱吉に、骸はこともなさげに言った。


「セクハラ、だよ!!」


 綱吉はじたばたと暴れたが、それはより骸の胸に飛び込むことになった。


「互いの同意の下では、セクハラではありません」


 そう言いながら、骸は綱吉の日本人としては色素の薄い茶色の髪に顔を突っ込んだ。


「オレは同意してない!」


 綱吉が、叫んだ時───





 ───コツコツ。






 突然、静かなはずの廊下から、足音が聞こえた。
 どんどんこの教室に近づいてくる。



 スッと体温が下がる感覚。
 綱吉の顔は真っ青になった。



 今の自分の状態。
 男に抱きしめられている…。



 こんなところを見られたら、絶対に何か取り返しのつかない間違いが起きるに決まっている。



「骸、離せよ!!」



 骸の腕はがっちりと綱吉のことを抱きしめている。
 綱吉の力ではどうしようもないほど、強い力。
 一歳しか違わないのに、どうしてここまで力の差があるのか。



「人にものを頼むときは、それ相応の態度が必要ですよ?」


 骸の声は面白がっていた。
 顔はみえないが、意地の悪い笑みを浮かべているはずだ。



 だめだ、この変態。



 綱吉は、絶望しはじめた。

 ふとある考えが頭に浮かぶ。

 今はもうそれしかない。

 綱吉はすぐさま実行に移すことにした。



 がちゃっとわずかに自由な手と足で掃除箱を開ける。


「おや、何をしているんですか?」


 骸の不思議そうな声。


「いいから、入れ!」


 綱吉は自分の体重をかけて骸を掃除箱に押し込んだ。
 骸の腕から解放されない綱吉も、一緒に掃除箱の中へ。


 ───パタンッ。

 ───がらがら。


 二つの音が重なる。


 危機一髪だった。



「10代目、遅いんで、来ちゃいましたよ」


「ツナ、携帯みつかんねーのか?」



 綱吉のよみは外れた。
 持つべきものは、友達とでも言うべきか。
 でも、このタイミングは最悪だった。


 二人は教室の中に入る。


「あれ、10代目いないんですか?」



 掃除箱の中は埃っぽい。
 上手く呼吸ができないけれど、頑張って息を殺した。


 ドクン、ドクン。


 やけに心臓の音が大きく聞こえる。
 教室にいる二人に聞こえてしまいそうだ。


 ドクン、ドクン。


 そういえば、なんか自分の鼓動と違うような…。


 ふうっと、髪に吐息がかかった。
 頭を少し上向けると、骸と目が合う。
 聞こえてくるのは、骸の鼓動。



 そうだよな、オレ、骸に抱きしめられているん───!?



 ようやく、綱吉は自分の状況を理解した。



 なんで、オレは骸と掃除箱の中に隠れてるんだよ!?
 普通にさ、二人に会って、骸を追っ払ってもらえばいいじゃんか!



 骸から体を離そうとしても、骸の腕だけではなく、狭い掃除箱の中は、身動きが取れない。
 下手に動くと、物音を立ててしまう。
 物音がたてば不審がった二人は掃除箱を開けるだろう。



 もし二人にこの状況を見られたら?



 それこそ、釈明のしようがない。
 THE この世の終わり。


「もしかしたら、入れ違いになったかもな」


 山本の朗らかな声。


「くそ、誰だよ、10代目を迎えにいこうって言った奴」


「お前じゃなかったか?」


「うるせー、黙れ!」


 二人は教室から出ていくようだ。


 なんとか助かった……。


 綱吉が安心した瞬間───

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ