+雲雀恭弥×沢田綱吉+
□+勘違い×不安=早とちり+
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1.
春一番はとうに吹き去ったけれど、春は他の季節に比べて風が強い気がする。いや、季節のせいじゃなくて、自分が屋上にいるからなんだろうなと綱吉は自分の思考にツッコミをいれる。
山本は夏の大会に向けて、お昼休みを返上して野球の練習をしにいった。だから、最近は獄寺と二人でお弁当を食べることが多くなていた。獄寺の話は、一にボンゴレ、二にボンゴレ。もう、全てがボンゴレについてだから、教室で話させるわけにはいかない。そのため、昼食は専ら屋上で食べるようになっていた。
時折、気合いの入った掛け声と共に、バットにボールが当たるこきみいい音が響く。そのたび、獄寺は野球に対する嫌み……むしろ山本に対する罵りをこぼし、喧嘩するほど仲がいいという言葉は果たして本当なんだろうかと綱吉は獄寺の話を聞きながら考えた。
それによって、自分も考えるところがある。
「そろそろ、戻りますか?」
「ん、そうだね」
綱吉は軽く伸びをした。天上から、淡い栗色の髪を焦がすように日光が降り注ぐ。
夏と間違う程の暑さに、綱吉は僅かにネクタイを緩めた。これも、地球温暖化の影響のせいだろうか。なんとなく、不機嫌な気分になった。
隣で立ち上がった獄寺は、制服にワイシャツ一枚という非常に涼しげな姿だが、綱吉は真似できない。
元来の妙に真面目な性格から、制服を校則違反することなく着ていた。最近は、それ以外の理由もあるのだが。
強い風は一見涼しさをもたらしてくれそうだが、熱気を孕んだ風のため、吹かない方がましだろう。
そろそろ、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。次の授業は、英語だった気がする。授業は全くついていけないが、授業前に教科書ぐらいは眺めておいた方がいいかな。
「そういえば、今日は単語のテストッスね」
獄寺の言葉に、綱吉は心底嫌そうに顔をしかめる。
「えー、嫌だ───…痛っ……!?」
綱吉は痛みを感じて、片目を閉じた。再び目を開こうとすると、じんわりと涙が滲み、それが目に染みて更に痛みを引き起こす。
「どうかしましたか、十代目?」
心配そうに獄寺が綱吉の顔を覗き込んだ。
「ん、目にゴミが……」
指で目を擦るたび、透明な涙が綱吉の頬を濡らした。涙は止めどなく流れる。
「ダメですよ、十代目、擦ったら網膜剥離の原因になります」
獄寺は目を擦る綱吉を止めようと、グイッと手首を掴む。
「毛膜破り?」
目を擦ったら、そんな変な膜が破れるの?つか、どこにそんな膜が……。
聞きなれない単語に綱吉は首を傾げる。
「網膜剥離です。この病気は……」
「いや、説明いらないから」
綱吉は長くなりそうな獄寺の話を止めた。獄寺は博識すぎて、凡人……以下の頭しかない綱吉には理解ができない。むしろ、理解したくない世界だ。
「そうですか……。あっ、十代目、睫毛でも入ったんじゃないですか?取って差し上げますよ」
「うん、じゃあ、お願い……」
獄寺は屈み込んで、綱吉の淡い栗色の瞳を覗き込む。
それが、端からどう見えるかも知らずに。