+雲雀恭弥×沢田綱吉+

□+悩みごと+
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1.


「ヒバリさん。何か用だったんじゃないんですか?」


 雲雀は、応接室に置かれた執務机で仕事をしていた。
 机の上はきれいに片付けられていて、白い書類の山にさらさらと雲雀がサインをしている。


 つーかさ、風紀委員の仕事って、書類が山になるようなものなのか?


 綱吉はどうでもいいことを考えながら、雲雀のことを見る。


「用がなきゃ、呼び出したらいけないの?」


 雲雀は手を止め、綱吉の方に顔を向けた。


「一般的に、そうだと思います」


「そんなこと知らないよ」


 こちらを見る雲雀の目には、面白がっているような色が浮かんでいた。


 まあ、ヒバリさんは一般的とはいえないからな。


 綱吉は心の中で呟いた。


「綱吉、言いたいことがあるなら、はっきり言いなよ」


 不機嫌になった雲雀の言葉に、綱吉は思わず手で口を塞いだ。


 え、嘘。もしかして、声に出てた!?


「君、わかりやすいよね」


 突然、雲雀は声を押し殺すように笑った。


 今のはったりですか!?


「それじゃあ、聞かせてもらおうか。綱吉が、今思ったこと」


 綱吉は条件反射で、プルプルと首を横に振る。

 いつの間にか、雲雀は綱吉の目の前に立っていた。
 綱吉は本人も気にしていることだが、身長が低い。そのため、大抵の人を少し見上げた体勢になる。
 雲雀に対しても、そうだった。


 誤魔化さなきゃ………、ヒバリさんが不機嫌になったら、何が起きるからわからないよ!


「ひ、ヒバリさん!そんなことより、ホントに用がないんですか?」


「僕が綱吉を呼びたかったから、呼んだじゃだめなの?」


「え、そ、そんな……」


 雲雀の言葉は飾りつけのない言葉で、純粋であるがゆえ、大きく綱吉を揺さぶる。
 温度計のように、綱吉の顔が赤くなっていく。


「綱吉、言ってごらん。君が何を思ったのか」


 もとより、綱吉に拒否権はない。
 ねぇ、とまっすぐな雲雀の目に促されれば、綱吉は洗いざらい話してしまうのだった。




「失礼だね、君」


 ほら、ヒバリさん、不機嫌になった。


 綱吉は身の安全を図ろうと、そろりと扉に向かって移動し始めた。


 しかし、それは叶わなかった。


「逃がさないよ」


 がしっと雲雀は綱吉の両肩を掴んだ。


「あのですね、ヒバリさん。オレはこれから六時間目を受けにいかないと……」


「ダメだよ。もう、君の言葉は聞かない」


 いや、ヒバリさんがオレの言うことを聞いたことなんてないはずなんですけど!


「ホント、失礼だね、君」


 雲雀は口をへの字に曲げた。


「な………」


 綱吉は、雲雀が自分の心を読めるのではと、目を丸くして雲雀のことを見た。


「何でだって?」


 雲雀は唇の端を釣り上げた。
 頬を子供にするようにふにふに引っ張られる。


「君の顔に書いてあるんだよ」


「オレ、そんなにわかりやすいんですか?」


 おずおずと綱吉は、雲雀に聞く。
 見上げる形の綱吉は自然と上目遣いになった。
 雲雀はそっと綱吉の頬を両手で挟んだ。


「相当ね」


 笑いながら雲雀は綱吉の唇に自分のそれを重ねる。

 触れあわせ、擦りあわせ、ときどき食んでくる唇は柔らかい。


 オレ、ただ唇を重ねるだけのキスが、こんなに気持ちいいものだと思わなかった。


 雲雀は綱吉の細い腰を抱きしめた。綱吉も雲雀の腕に縋りつく。
 雲雀がより深く求めるように、覆い被さってきた。自然と、綱吉の踵が床から浮く。


 二人の体が密着した。


「ん……」


 手を添えた雲雀の腕は、シャツ越しでもはっきりわかるほど、しなやかな筋肉がついていた。綱吉は腕を掴んでいた手を、躊躇いながら背中に回した。


 自分とは正反対のがっちりとした体は、男らしいと思う。


 雲雀が舌先で上唇と下唇の間をつついてきた。綱吉が僅かに唇を開けば、スルリと舌が入り込んでくる。


 初めは生暖かく濡れた感覚が気持ち悪くて、それがいつの間にか慣らされていた。
 双黒の瞳が催促してきたので、綱吉自身も舌を絡めにいった。


「………んんんっ」


 しばらくして、重ねられていた唇が、そっと離れる。


 雲雀の指先が、そっと重ねていた綱吉の唇を撫でた。なされるままの綱吉に、雲雀は満足そうに唇の端を釣り上げた。


 雲雀さんは、余裕があってずるい。オレはキスの後、なんにもわからなくなっちゃうのに。


 綱吉はムッとした表情を見せた。


「綱吉、少し筋肉がついたと思ったら、全然ついてないね。腰の辺りとか、掴めそう」


 雲雀そういいながら、綱吉の腰を掴んだ。


「ヒバリさんは、いいですよね、見かけは細いのに、しっかり筋肉がついてて。オレなんて見かけ通りにガリガリで………」


 頬を膨らませた綱吉の鼻先に、雲雀はちゅっと口づけた。


「綱吉は、そのままがいいよ」


 雲雀は珍しく、優しそうな顔をした。
 その表情に、ますます綱吉は、ムッとした。


「どうせヒバリさんには、オレの悩みはわかりませんよ!」


 綱吉は声を張り上げ、雲雀の腕を振りほどき、足早に応接室を後にした。

 ヒバリさんが悪くないのは分かっていたけど、なんか、悔しくて、オレはどうしようもなかった。


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