+雲雀恭弥×沢田綱吉+

□+愛するあなたの為に+
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「えっと………」


 オレは戸惑いながら自分の上にある顔を見上げた。


「これって、どういうことか教えてくれませんか?」


 男は凶悪な笑みを浮かべた。


「いったでしょ?君の才能をこじ開けるって?」


 男の名は、雲雀 恭弥。
 並盛中最強だった男。
 過去形なのは、ヒバリさんの他に強い男が現れた訳ではなくて、彼が卒業したから。
 今は、並盛中学風紀委員を母体とした秘密地下財団のトップ。


 10年後のヒバリさんである。


「はい、聞きました。でも、この状況は関係ないような……」


「あるよ」


 ヒバリさんは喉の奥で笑った。


 10年後のヒバリさんはよく笑うようになったと思う。
 恋人のオレだって、ヒバリさんのこんな表情は滅多に見たことがない。
 10年の間に、オレたちに何があったのだろう。


 ただひとつだけ、わかったことは…


 10年後も、オレはヒバリさんと付き合っているということ。


 それは、オレを安心させてくれる。


 だけど……


「だったら、おしえてくださいよ、ヒバリさん。何でオレが押し倒されているのか!!」


 オレは力の限り叫んだ。
 布団の上でオレに覆い被さっている、10年後のヒバリさんに向かって。
















 オレがなぜこんなことになっているのか。
 少し時間を遡る。


 今、ヒバリさんはオレの家庭教師をしている。
 この10年後の世界で通用するように、オレを短期間で強くするため。


 ヒバリさんの攻撃は容赦がなかった。
 殺したいほど好きという台詞があるが、ヒバリさんの場合は好きだから咬み殺したいだろう。
 本人も、そんなことをいっていた。

 全く、相手をするオレの身にもなってほしい。




 夜に風紀財団の基地に呼ばれたのも、オレを鍛えるためだろうと思った。


 ノコノコとやって来たオレが案内されたのは、ヒバリさん部屋だった。
 ヒバリさんは、畳敷の和室に座って書類に目を通している。
 すぐそこには布団が敷かれ、ヒバリさんはここで寝起きをしているのがわかった。


 和服をきたヒバリさんが物凄く色っぽくて、流し目でオレのことを見た瞬間、体中の血が顔に集まる。


 ヒバリさんは、そんな姿で戦うんですか!?
 どれだけ余裕なんですか!?


 頭の中で不満をぶちまけたが、声には出さなかった。
 見返してやりたいという闘争心がオレの中で燃え上がったのだ。


「遅いよ」


 ヒバリさんは唇を尖らせた。
 ヒバリさんが子どもぽい仕草は、いったら殺されると思うけど、可愛い。


「5分早く来たつもりなんですけど」


「僕は待たされるのが嫌いなんだ」


 そんなの、横暴だ。
 時間を指定したのは、ヒバリさんの方でしょ!!


 オレは頬を膨らませながら、毛糸の手袋を取り出した。
 ヒバリさんは、オレの行動に眉をひそめる。


「何してるの?」


 オレはヒバリさんの言葉に困惑した。


「え?戦うんじゃないんですか?」


「綱吉、側においで」


 ヒバリさんはオレの問いかけに答えず、手招きをした。
 いいたいことは色々あったが、とりあえず従う。
 従わなかったら、命がなくなる。


「座りなよ」


 ヒバリさんは赤い座布団で、きちんと正座をしていた。
 近づくとほのかに酒の香りがする。
 台の上には徳利とお猪口が乗っていた。


 ヒバリさんはお酒を飲んでいるようだ。
 まあ、確かに頬に桜色がさしている。


 とことん余裕ですね。
 つーか座布団、オレにだってくれてもいいじゃん。


 オレはふてくされながらも、畳の上に座ろうとした。


「そこじゃなくて、ここ」


 ヒバリさんは座ろうとしたオレの体を引き寄せた。


「えっ、ちょっ!?」


 オレはヒバリさんに後ろから抱きつかれた。
 心なしか、頬擦りをされている気がする。


 尻から伝わるのはちょうどいい固さのもの。
 オレは、ヒバリさんの膝の上に座らされていた。


 ヒバリさんの唇が首の後ろに触れる。
 チロッと舌先が肌を舐める。
 淡い刺激に、思わず、声が漏れる。


「綱吉、抱かせてよ」


 ヒバリさんの飾り立てのしないまっすぐな言葉が耳元で囁かれる。
 ヒバリさんの息がかかり、ゾクッと体が震えた。


 もしかしてヒバリさん、酔ってるの!?


「ヒバリさん、もう抱きしめてるじゃないですか!!」


 オレは力一杯反論をした。


「そうじゃなくて……」


 ぼふっという音が聞こえ、背中が柔らかいものに包まれた。
 それが布団だと気づいたとき、ヒバリさんが覆い被さってきた。


 こうして、オレはヒバリさんに押し倒されることとなり、今に至る。













 ヒバリさんはしばらくオレの顔を見ていた。
 でもそれは、オレのことを見ているというよりは、オレの遠くにあるものを見ているようだった。


 一体、何を見ているんだろう?


「綱吉、好きだよ」


 真っ直ぐな言葉。
 ヒバリさんは唇を釣り上げた。
 その表情の中に、オレは違和感を覚える。


「ヒバリ、さん?」


 オレの言葉を塞ぐように、唇が重ねられた。
 歯と歯がぶつかるような乱暴なキス。



 ヒバリさんの唇はかさついていたが、オレの歯列を割って舌が侵入してくる頃には、柔らかくなっていた。


 ヒバリさんの舌が貪欲にオレを求めてくる。
 舌が絡まりあい、いやらしい音が響いた。


「ん、ン……────っ!」


 絡めていた舌が強く吸われた。


「もっと可愛い声で鳴いてよ、綱吉」


 ヒバリさんの手が、オレのきているパーカーを脱がしにかかる。
 その性急な行動に、オレは身をよじった。


 しかし、あまりにも体格が違いすぎる。
 10年間の差は、大きい。


「やめてください!!」


 ヒバリさんは突然大声をあげたオレのことをみた。
 軽く、目が見開かれている。


 オレが見つけた違和感。


 ヒバリさんは不敵に笑った顔を作っていたが、泣いているようにみえた。


「ヒバリさん、オレはヒバリさんのことが好きです」


 オレはすぐ近くにあるヒバリさんの顔をみた。


「でも、あなたはオレの時代のヒバリさんじゃなくて、10年後のヒバリさんなわけで、オレはこの時代のオレじゃなくて、10年前のオレなわけで………」


 オレは自分の考えをまとめようと頭をかしげた。


「あなたは、ヒバリさんだけど、オレの知っているヒバリさんじゃないんです」


 オレのいっていることは滅茶苦茶だったけど、ヒバリさんにはなんとか伝わったみたいだった。


「そうだね」


 ヒバリさんは静かに呟いて、苦笑を漏らした。


 オレはそんなヒバリさんの頭をギュッと胸に抱き寄せた。


「綱吉?」


 わずかに驚いた声でオレの名前を呼んだ。


「でも、ヒバリさんはヒバリさんなんですよね」


「なにいってるかわからないよ?」


「はい、オレもわからないです」


 オレ、頭悪いですから、そういって笑って見せた。ヒバリさんには見えないだろうけど。




「ヒバリさん、泣いていいんですよ?」


「ホント、なに、いってるの?」


 オレはヒバリさんの声が震えたのを聞き逃さなかった。


「あなたの恋人である、10年後のオレは………死んじゃって…あなたは、悲しんでくれてるんですよね?」


「────ッ!」


「オレ、少し嬉しいと思います。あなたが、オレのために悲しんでくれて。だけど、それ以上に、嫌なんです」


 オレはヒバリさんの頭にまわした腕に力を入れた。


「オレのせいで、あなたが辛い思いをするのは嫌なんです。オレはヒバリさんが好きですから、10年後のヒバリさんにも笑っていてほしいんです」


「僕は………」


「だから、オレは強くなります。未来を変えるために、あなたが悲しまないように」


 ヒバリさんはオレの背中に腕をまわした。


 しばらく黙っていたヒバリさんは、おもむろに口を開く。


「君は、そんなにも僕のことがわかってるんだ。10年前の僕は、知ってるのかな?」


「さあ、どうでしょう?それは、ヒバリさんにしかわからないと思います」


 ヒバリさんのオレを抱きしめる力が強くなった。
 ヒバリさんが乾いた笑い声を出した。






「綱吉………」


 ヒバリさんが震える声で呼ぶ。


「はい」


 それは、オレのことを呼んでいるわけではないけど、オレは静かに返事をした。

「綱、吉────……!」


 気が遠くなるほどきつく抱きしめられる。


 ヒバリさんの嗚咽が漏れた。
 オレはポンポンとヒバリさんの背中を叩きながら、ただヒバリさんが呼ぶオレの名前を聞いていた。












 ヒバリさん。

 オレ、あなたに誓います。

 どんなことがあっても生き残るって。

 だって、あなたに悲しむ顔は似合わないから、

 もっと長い時間をあなたと過ごしたいから、








end...

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