+雲雀恭弥×沢田綱吉+

□+勘違い×不安=早とちり+
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2.




 いつものことだけれど、なぜか腹立たしい。


 雲雀は持っていた書類を机の上に放った。白い紙は机の上に留まらず、床に滑り落ちる。自分でやったことなのに、それにすら雲雀は腹を立てた。


 綱吉と付き合い始めて四ヶ月と少し。自分はよく我慢してきた方だと思う。
 まず、恋愛感情など知らなかった自分は、草食動物に抱いた感情を理解できずに苛立ち。ようやくそれを理解した時には、同性だということに苛立ち。忘れようとしても忘れられない想いを受け入れた頃には、季節が一巡りしていた。
 その後、あの鈍感……人の気もしらずにヘラヘラしてることに苛立ち。どうして自分だけこんな想いに苦しまされないといけないんだと、理不尽さに苛立ち。
 もうこの際、無理矢理と自暴自棄になっていた自分と全く何も知らない綱吉を結びつけたのが、あの赤ん坊だったことに、ヒバードの羽ぐらいの感謝と苛立ちを感じた。


 この間、雲雀の苛立ちを解消するためにどれだけの罪のない群れと風紀委員が犠牲になったかは、あえて触れないでおく。


 さらに、綱吉の返答は曖昧なもので、一応結ばれた(と雲雀は思っている)が、実際のところ、恋人らしいやり取りはあまりない。


 綱吉は触れようとするたび逃げて、兎みたいだなと思いながら、雲雀は追いかけた。

 綱吉は追いかけられるから逃げる。
 雲雀は逃げるから追いかける。

 卵が先か、鶏が先かという状態になっていた。

 それがなんとかぎこちなくではあるが、触れることができるようになり、三ヶ月後、ようやくキスまで進めた。
 また一ヶ月たち、綱吉もキスに少し慣れたようだが、未だに唇が触れあうたびに体を震わせている。怯える仕草に、雲雀はなんだか綱吉を苛めているような、いや、それはそれで愉しいのだが、もう少しぐらい受け入れるような反応を見せてもいいのではと思う。


 早く全てを知りたいと思う衝動と、関係を壊したくないと思う、らしくない良心がせめぎあった。
 同時に、一抹の不安が胸をよぎる。


 綱吉は、本当に僕のことを好きなんだろうか?


 綱吉が流されやすい性格だとはよく知っている。事実、雲雀はその扱いやすい性格につけこむことがあった。
 雲雀のことを恐れている綱吉は、申し出を断れず、嫌々雲雀と付き合っているのではないだろうか。


 そうだとしても、僕は綱吉を手放すことはしない。
 僕は綱吉が幸せになってほしいと思う。けれどそれ以上に、綱吉がいなくなることを僕は耐えられない。
 もし、僕から綱吉が逃げることがあれば、捕まえてどこかに閉じ込めてしまうだろう。


 いけないと思っても、雲雀は自分の気持ちを制御することができない。
 沢田綱吉という存在は、並盛最強と言われる雲雀恭弥の唯一最大の弱点となっていた。



 そして、話が戻るわけだが、今、雲雀が腹を立てていることは、昼食の事だった。
 群れるのを嫌う雲雀は、普段は応接室で昼食をとっている。
 それは、日常のはずだったのに、物足りなさを感じるようになった。かといって、けたたましい群れに入りたいとは思わないし、近くにいるだけで、トンファーでめちゃくちゃにしてやりたいと思う。

 欲しいのは、ただ一人だけ。

 その一人を応接室に呼びつけようと、風紀委員を使って言付けたが、すでにいつも周りにいる邪魔な群れと一緒にどこかへ行った後だった。
 また風紀委員を使えば探すことなど容易いが、そこまでする必要はないと諦めた。


 全く、どうして君は僕の逢いたいときにいないんだ。


 雲雀にとって、綱吉に逢いたくないときなど存在しない。だから、できることならいつも自分の隣に置いておきたいし、一緒にいたい。


 でも、それは叶わない。


 大空は雲だけのものではなく、全てを包み込むから。
 束縛を嫌う雲雀がただの一点において縛られる存在は、何十にも何十にも鎖によって縛られている。
 綱吉はマフィアのボスになる運命。それを振りほどくことはできないだろうし、綱吉自身、自分の運命を受け入れていた。
 いずれ、自分とは相容れない人間となる。


 沢田綱吉は好きだけど、ボンゴレ十代目は嫌いだ。


「……………」


 雲雀は軽く瞳を閉じて、深い息を吐いた。
 もう少ししたら、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。次の授業は、興味がないから受けるつもりはない。雲雀はいつだって、好きな授業に出て、嫌いな授業にはでない。自分の好きな学年にいる。


 天気がいいし、屋上で昼寝でもしよう。


 雲雀は回転椅子の背にかけた学ランを羽織り、廊下に出た。


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