Celeste Blue(二次)

□鐘を鳴らして
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最初に訪れたのは仕立て屋で、売り子の少女は自分の来店に、わかりやすく目を見開いた。
それでも仕事は忘れないらしく、どのようなものを?と聞いてきた。

「その・・・ウエディングドレスを・・・。」

瞬間、奥で仕事をしていた姉と、その祖母もこちらを見た。
ダタダタダタとミシンが鳴り、そこであぁ、とようやく合点がいったという表情の奥の二人と、少し複雑そうな顔をした売り子が、同じタイミングで瞬きをした。

人と話すという事がこんなに緊張する事だと思わなかったが、それでも彼女の幸せの為ならと耐えた。
最初に口を開いたのは、確か彼女の一番の親友だったと聞いた、おとなしい少女だった。

「いろいろあるとは思いますが、ヒカリさんを不幸にしないで、下さいますか?」
「・・・持てる力全てを使って・・・幸せにしたい、と思ってる・・・。」

少女はふっと微笑して頷いてくれ、必ず仕上げますと売り子も請け負ってくれた。

次に訪れたのは、アクセサリーショップだった。
派手な店員がいたので声をかけると、先程の姉妹と同じ顔をされた。
青い羽を取り出すと、ショックを受けた顔をされた。

「ア、アタシ、そんなシュミないわよ・・・。」
「・・・違う・・・これで指輪を、作ってほしい・・・。」

彼がヒカリね、と呟いたので、黙って頷く。
彼はしばらく考えたあと、軸を摘んでくるりと一回転させた。

「アタシ達、町の皆はヒカリをとても大切に思ってる。」
「・・・知ってる。」
「だから、アンタが心配なの。」
「・・・知ってる。」
「それでもヒカリを貰うの?」
「・・・うん。」

イライラしたように男は叫んだ。

「あぁん!もう!アンタね、そんな弱気でどうするの!?恋愛はね!パッションよパッション!」
「・・・とにかく、大切にしたいとは思ってる。」

言ってる意味はよくわからなかったが、考えていることはそのまま伝えた。
男はムム、と見つめてきたが、やがて大切に箱に羽をしまった。

「わかったわヨ!1週間で仕上げてあげるから、アンタも少しはしゃきっとなさい!」

最後に訪れたのは役所で、出迎えてくれたのは町長だった。
出されたお茶に一口だけ口を付けると、町長が口を開いた。

「・・・本当に君には済まない事をしたと思っている。もちろん彼女にも。」

「・・・それは、いいです・・・今までも俺には・・・戸籍が無かったし・・・。その判断は・・・正しいと、思う・・・。貴方も町の人も・・・こんな俺に、優しいから・・・。」

「では・・・どうしたのかね?出来ることなら、何でもしたいと思うのだが。」

「俺の事は・・・いい。・・・俺の在り方はきっと・・・これからも変わらないし・・・変えられない・・・。寿命とは、そういうもの・・・。違う・・・。」

口にして、今更の事実に胸が痛む。
出来ることなら彼女と同じ時を生きて、共に死んでいかたかった。
町長の眼差しに促され、ただ1つの未来への望みを口にした。

「なら・・・俺たちに子供が出来たら・・・その子には戸籍を作って欲しい・・・。彼女とその子供が、俺のような思いをしないように・・・。俺はもう十分、幸せだから・・・もっと幸せに生きてほしい・・・。」

一一一一一一一一一一一一

今目の前の彼女は闇に包まれていて、いつのまにか月光が自分に降り注いでいた。
傍にいたいと言ってくれた彼女と口付けを交わしながら、闇が恐いと言われた夜を思っていた。

彼女の不安を取りのぞくのに思案するあまり、寒さにも気が付かず体を冷やしてしまった時、コーヒーを差し出した彼女は言ったのだ。

「なら、光は寒がりの影を温めているんですね。」

思えば彼女は、自分を照らす光そのものだった。
だから幸せを感じる自分が、今光にいるとすれば、彼女が闇に立つのも納得がいった。

つまりは光と影のような存在なのだ、自分達は。
それでも離さないでと、寒がりな自分を光の側に立たせようとしてくれるのならば。

涙が出るほど愛しい君だから、この存在の総てを懸けて。

「・・・もう、離さない。」

例えば俺が光に立つとき、君が影に立つのなら。
それでも傍に在りたいと。









I must be the light when
you're in the dark.









(寒がりの影を、温める光のように。)
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