Celeste Blue(二次)
□右手を繋ぐその前に
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【勿体ないというのは世界に広がる日本語ですが】
さすがにプロテインと牛丼でも、真田先輩と食事したという出来事にはかわりないので(それがボリボリとかネトネトだろうが)ファンクラブがいない時を見計らって麻衣ちゃんと絢香ちゃんに話す。
麻衣ちゃんはまたおばちゃんっぽい笑いで一人爆笑し、絢香ちゃんは同情してくれた。
「わかるよー!部活でたまに飲まされるもんプロテイン。まっずいよねー。」
女子にプロテイン飲ませるなっつのと、絢香ちゃんはバスケ部の話を少ししてくれた。
「にしてもファンクラブもファンクラブだけどさー、真田先輩も相当アレだね。クールビューティーが泣くって。」
「だれそれ状態だよ。」
ひとしきり二人に話して、何とか笑い話に出来るぐらいには精神的に落ち着いた。
が、やはり今年度最初の時めきがあのプロテイン野郎だというのは、何だかいろいろ自分が許し難い。
出来ることなら本当に無かったことにしたい。
「そういえばさ、今日から部活の再募集始まったんだよ。知ってた?」
バスケ部はしてないんだけどねー。
絢香ちゃんはそういって再募集している部活を幾つか上げてくれた。
「前の学校では何部だったの?」
やっと笑い終わったらしい麻衣ちゃんが、そう聞いてきた。
前の学校ではバドミントン部だったが、再募集どころかこの学校にはバドミントンがないらしい。
「あ、ボクシング部の
マネージャーも再募集みたい。」
「え、意外。真田信者が飛びつきそうなのに。」
「だからよ。男子はむさ苦しい部活のマネなんてやらないし、女子は信者が牽制するし!」
「噂によれば、今マネやってた子が胃潰瘍でダウンしたから再募集らしいよ。」
そう付け加えた後に、麻衣ちゃんは爽やかにレッツチャレンジ☆なんて言ったが、速攻でお断りした。
「ああ、勿論構わないぞ。精神面でのいい鍛練にもなるだろう。」
一応念のため桐条先輩にお伺いを立てると、そんな返事が返ってきた。
「ん?部活入るの?課外活動部もしんどいってのに頑張るねー。」
会話に加わったのは、夜ご飯を食べに下に下りてきた順平とゆかりだった。
「あ、でも個人競技にしておいた方がいいよ?万が一の話だけど、大会前に怪我とかして仲間に迷惑かけるとアレだし。」
ゆかりの意見ももっともだ。
思えばここの人達もゆかりを含め、ボクシングやフェンシングなど、個人競技ばかりだった。
やはり団体競技は控えるべきだろう。
「ありがと、ゆかり。」
「いーよ。楽しいのに入れるといいね。」
「なんだ。部活で迷ってるのか?」
話に入ってきたのは真田先輩だった。
いつもは奥で牛丼掻っ込むかグローブ磨くかのどちらかなのに、今日は雑誌を片手にしている新しいパターンだ。
「ならボクシング部の」
「却下です。」
「まだ最後まで言ってないぞ。」
「マネージャーですよね。前の人が胃潰瘍になったらしいって。」
あぁと真田先輩は頷き、それから首を横に振った。
「それ程ストレスのある仕事でもなかったと思うんだがな。なぜだろうな?」
いや、聞かれても!
というかぶっちゃけ多分ほぼ10割貴方のせいですから。
どうやら噂は本当らしく、もともと入る気も無かったが、「興味が無い」から「なんとしても避けたい」に変わった。
「まぁ何にせよ、部活をお前の力に出来るといいな。」
妙に爽やかなオーラでそう言われ、一瞬ドギマギする。
どうも私の心臓は慣れてくれないらしく(主にギャップに)しょうがないので、先輩の持ってる雑誌について話を振る。
「何読んでたんですか?」
「これか?週間ボディービルドだが。なんだ、知らないのか?有名な雑誌なのに。」
貸すかなんて言われ、全力で断る。
というか雑誌まで筋肉という徹底ぶりもどうだろう。
しかも週間。
どの筋で有名なのだろう、知りたくもないが。
「興味があるならいつでも貸してやるからな。」
「はあ。」
妙に優しい笑顔で言われ、心の中だけで、大丈夫多分一生私には縁の無い雑誌ですから。
そう思った。
「本当勿体ないよねー。あの顔なのに中身これだもん。」
後にボソッと口にしたゆかりの一言に、私は激しく同意を示した。