Celeste Blue(二次)

□右手を繋ぐその前に
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【列車は急に止まれません】

「ナイッショ!いい感じだよ!その調子!」

爽やかにそう言われ、どうも火が点いたらしい岩崎さんが対角線にサーブする。
初心者に容赦が無いな!と思い視線を上げると、労るような目で西脇さんが声援を送ってくれた。

「っはー!すごいじゃない!やっぱ筋がいいんだよ。反射神経もいいし。」

レシーブ練習が終わり、一気にスポーツドリンクを飲み干す。
結局、腕力がつけば戦闘にも有利じゃないかという理由でテニス部に入部した。
五月に入り部活のシーズン到来ということもあるのだろう。
ほぼ毎日部長による扱きを受けている。

「そんなことないよ!」

だって反射神経云々は、日夜シャドウとの攻防で鍛えざるを得なかっただけだし。
素早さは・・・まぁファンクラブから逃げ回る為だ。

「いやいや、結構いいセンいくかもよ?」
「西脇さん。」
「あ!結子でいいって。いや、本当に鍛えてる感じするよ?筋肉とか結構ついてるし。」

筋肉と聞いてついつい嫌なものを思い出してしまう。
まさかあのプロテインのせいで筋肉がついてるなら、真田先輩を今いるだけのペルソナでフルボッコにしたい。

「あ、アレボクシング部の真田先輩じゃない?」
「本当だ。うわーハーレム?」

部長の言葉についついビビるが、視線の先には確かに先輩がいた。
3、4人のファンに絡まれてるらしく、明らかに困り果てていた。
だが私は、普段いらない苦労をさせてる罰だっ!と心の中で笑いながら、とばっちりを喰らわない内に、寮に戻る事にした。

「酷いじゃないかお前。」
帰ってきてかけられた第一声は、そんな真田先輩の一言だった。
なんだこの人と一瞬思ったが、さっきのアレかとすぐに合点がいった。

「えー、あー、いやーお楽しみのところ邪魔しちゃ悪いなと。」
「楽しいわけないだろ!お陰で計画してたロードワークも出来なかった。」
「あー、それはすみません。でも順平辺りなら泣いて喜ぶと思うんですよねー。」

あんなの順平にくれてやると、順平が聞いたら羨ましがりそうな発言をしながら、日課のプロテインを取り出していた。
中身はこんなのなのに。

一一一一一一一

「何事ですか!?」

真夜中のサイレンに慌てて作戦室にかけこむと、すぐに桐条先輩から作戦命令が下された。
一度部屋に戻って各自準備を整える。
そこで真田先輩に呼び止められた。

「おい、緊急事態だからな。このプロテインを」
「結構です!」

あ、デジャヴ?
というかこの緊急時にまでプロテインだと!?
これが真田クオリティーか。

「冗談だ。そもそもプロテインにはそんな即効性はない。ほら、気分が紛れたろ?」

肩に力が入っているぞと、ポンポンと肩を叩かれる。
そして代わりに眠気でも覚ませと、ブラックガムを渡された。

「いいか?困ったら拳を突き出すんだ。」

あぁ、一秒前の頼もしい先輩を返してほしい。
なんでこんな真顔でツッコミに困るぶっ飛んだ発言をするんだ。
しかもこれは冗談じゃないらしい。

「あーもう何でもいいですから頑張って来ますよ。」
「リーダー!いくぜ!?」

順平の声に呼ばれ、少し慌てて私も皆の後に続いた。

一一一一一一

予想を超える巨大なシャドウを目の当たりにして、一瞬足がすくんだ。
二人の命を預かっている現場リーダーだ。

ミスは許されないと気合いを入れる意味で、口にした真田先輩の粒ガムの糖衣をカシリとかみ砕いた。
広がる辛み、さすがに拳は突き出さないが、気合いは十分。

「っペルソナ!」

私が動き出した事で二人も我にかえったらしい。
さっさと終わらせるよという私の掛け声に、頷いてペルソナを発動させてくれた。

一一一一一一一

「っなんで止まらねえんだよ!?」
「まずい!次の駅にぶつかる!」

シャドウを倒したのに止まらないモノレールに、否応なしに焦る。
何か手はないかと見回すが、鉄道マニアでもないので当然知識もない。
どうしようどうしよう!?

焦る脳裏に蘇るのは、あの一言。

「いいか?困ったら拳を突き出すんだ。」

ここで真田先輩が!?とは思ったが、本当それどころじゃない!
ゆかりの叫びが聞こえ、どうにでもなれと突き出した拳が打ち砕いたのは。

「っ・・・お前、どんだけラッキーガールだよ・・・。」
「た、助かった・・・。」

緊急車両停止ボタンのカバーガラスだった。
力の入った拳だったのか、一発でボタンは作動して、何とか事なきを得た。

ぎりぎり影時間も終わり、オーバーラン騒ぎになっているモノレール乗り場を後にすると、真田先輩から電話がかかってきた。

「もしもし?」
「美鶴から聞いた。よく頑張ったな。」
「あ、いえ。ありがとうございました。」
「俺は何もしてないさ。お前の頑張りだ。」

張り詰めていた神経に真田先輩の優しい声は、素直に胸に染みた。
今回はいろいろ感謝だったなと思っていると、軽食でも頼もうと言われ、私達はコンビニに行く予定を変更して寮に戻った。

「・・・軽食って言ったじゃないですか!」
「お前らなら牛丼ぐらい軽いだろ?」

で、用意されていた某24時間営業の牛丼屋の牛丼を泣く泣く食べた。
明日の部活は頑張らないとカロリーがやばい。
というか真田先輩の中で私達はどんな食いしん坊キャラだ。

「っ!?今ガリッて、俺っちの牛丼ガリッてした!」
「・・・大丈夫、ただのプロテインだから・・・。」

しかも期待を裏切らずにプロテイン添加済みだった。
人生二度目のプロテイン添加食品に、初体験の二人を励ましながら口にする。

妙に(嫌な)歯ごたえのする牛丼を噛み締めながら、本当にちょっと前の感謝を撤回したいと思った。
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