Celeste Blue(二次)

□このドアは開かない
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「もう、別れようや。リザ。」

まるで何でもないように言うジャンの声音に、リザは縋るようにジャンを見る。

「反則、っすよ。その眼も。」

リザはあまりのショックに声が裏返るのを自覚した。
だけど言葉にして、彼の手を取らないと、この距離は永遠に自分達を別つだろう。

「っ嫌よっ・・・!こんなの、あなたならリハビリでも・・・!?」

瞬間、二人の距離は0になる。
塞いだ唇から伝わるのは、温もりと、悲しみ。

ツウとリザの頬を透明な結晶が伝う。
ジャンは、ゆっくりその涙をなめとって、リザから手を離した。

「これ以上惨めに、しないでくれ。」

それはまるで、愛している。とでも言うような哀切の響きを孕んでいて。

「・・・貴女が、俺を切り捨てて下さい。・・・非情に、なってくださいよ。」

あの優しすぎるクソ上司の代わりに、と捻りだしたジャンの笑顔は、泣きだしそうだった。

「・・・行って下さい。」

貴女ならば、俺が居なくても、彼を支えられる。
そんな貴女ならば、きっと棄て置かれても、耐えていける。

「・・・分かった。」

スッとリザの青い軍服が立ち上がるのをジャンは直視せず、目の端で確認する。
直視なんてしたら、きっと堪えていた涙は溢れてしまう。
そうしたら、俺の為に非情に成り切ろうとしてくれる貴女の優しさは無駄になるだろう。

「ジャン。」

その涼やかな声で呼ばれたら、条件反射で思わず目はそちらに行ってしまって。
自分に向けられた凛と伸びた背中は、眩しいほどに愛しくて。

「愛してる。」

そうしてパタンと閉められた扉の向こう。
きっと彼女は泣いている。

その手を引いて抱き寄せて、涙を拭ければよかった。

唯、無情にもドアまでの距離はジャンの前に重く横たわり、彼にはそのドアを開ける術が無かった。

このドアが開いたら。

ジャンの最後の願いは虚しく



このドアは開かない。



Fin
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