Celeste Blue(二次)
□リトルプレイヤ、声を枯らして。
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彼人が実は不器用なのを隠しながら、セーターを編んでいたことを知っていた。
初めて見たのは夏の暑い日の事で、一体どうしてそんなものを、と聞いたことがある。
その場に他の誰もいなかったのと、自分が小学生だというので、彼人は警戒しなかったのかも知れない。
少し照れられながら、内緒だと約束して教えてもらった。
「昔、な。あいつにマフラーを編んでもらったんだ。あいつが戻ってきた時、最初に、その礼をしたいと思ったのでな。」
編目を詰めるのに四苦八苦しながら、彼女はそう宣った。
景色は覚えてなかったが遠くで蜩が鳴いていたので、おそらくは夕暮れ時だったと思う。
複雑な気分で黒い糸を編み上げる銀の編み針と、それを操る白い指を見ていた。
彼女はあいつと言って、名前を出すことは無かったが、彼女があいつと呼ぶ中でそんな家庭的技能を持つ人物なんて、一人しかいない。
それは奇しくも自分の仇で、自分のことをきちんと評価してくれる先輩が、照れながらそれを編むという場面は、なかなかに自分の神経を逆撫でしてくれた。
「頑張って下さいね。」
と、努めて平静を装った言葉がひどく冷たく響いたのも、苛立ちの材料になった。