Celeste Blue(二次)

□Red Hot × Cool Blue
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エンハーモニック

同じ日同じ時間、同じ寮同じクラス。
――――同じ、ペルソナ――――

彼が影なら彼女が光、彼が月なら彼女は太陽。
彼が黒なら彼女が白で、彼女が赤なら彼が青。
つまりは、そう。
陰陽で対偶。

―――――――――

彼は、容赦が無い。
茜曰くのタラシで、順平曰くの無愛想に、ゆかりはそう判断を下す。

初夏に近づく月光館の中庭は、若草色から暗緑色へと色を移し往く木々で、むせ返るような緑一色だった。
その中にひときわ明るく陽光を反射する、制服の白が一対。

女の方はおそらく上級生だろう、そして男は我等がリーダー有里 湊。
いかにもな場面だな、とゆかりは思う。
ゆかりが立っている場所からは湊の背中しか見えないが、女の方は耳まで真っ赤になって俯いている。
項垂れているその様子は、ある種神の審判を待っている様だ。

彼は神掛かった能力、天賦の才とでもいうのだろうか、それを持ちこそすれ、神そのものではない。
だが彼が女に下す審判は、女の側からすれば、ある種神の鉄槌級の衝撃にも匹敵するのだろう。
だが傍観者の側からすればそれは単なる応答でしかなく、第一その応答、容易に内容の想像が付くので衝撃でもなんでもない。

「すみません、気持ちは嬉しいのですが。」

飾り気も情けも容赦も無い返答。
う、と女の上げる鳴き声がゆかりの耳まで届き、関係も無いのにこちらまで罪悪感に襲われる。
湊の背中は先ほどから変わらずにそこにある。
少々猫背気味のその後姿から、普段の覇気のかけらも無い表情をしていることが手に取るようにわかった。

「っ、どうして?私、我侭とか言わない方だし、結構尽くすタイプって言われるよ?」

おお、女の反撃。
その反骨精神を少しは彼も見習えばいいのに(その全身からみなぎる無気力オーラはどうにかならないのか)
湊はコキ、と首を捻る。
それは疑問云々ではなく、どう見ても単なる肩こり解消の動作でしかなかった。

告白の場に流れる微妙な空気は、ゆかりにも分からなくはない。
だがそこまで居心地の悪さを全身で表さなくてもいいと思う。
好きか無関心か、いつだって彼の思考はクリアかつ容赦が無い。

「…僕は、」

ゆかりは今にもため息を吐きそうな声色でそう口にした湊に、茶番の終わりを感じ取った。
一拍。

「貴方の名前も知りません。」

不意に脳裏を過ぎったのは、一昨日のタルタロスで茜の繰り出したブレイブザッパー。
まさに一刀両断、告げられたゲームセット。
勝者のいない試合終了に、女の顔は涙で歪む。
ドラマチックに駆け出した女を、彼は目で追いもせずに大きく伸びをする。
そして何事も無かったかのようにイヤホンを取り出そうとして、その手を止めた。

「岳羽、覗きの趣味でもあったの?」
「馬鹿じゃないの。先輩から連絡。急いで作戦室集合だって。」

こちらに向かって歩きながら、僅かに小首を傾げる。
涼しげな髪が、さらりと右に傾いだ。

「電話してくれればよかったのに。」
「茜がかけたら、机の中からスリラーが。」

湊はポケットに手をやって、ようやく携帯の不在に気づいたらしかった。

「なんだろう。じゃあ岳羽一緒に帰らない?」
「嫌。有里君たった今告白されたばっかりだし。一緒に帰ってさっきの人に見られたら厄介じゃない。」
「岳羽は気を回しすぎなんだよ。」

彼は女の嫉妬というものを理解していない。
それが彼の興味の対象外な場所にあるからだろう。
興味ないものは興味ない、それが彼のスタンス。
彼の口癖、どうでもいいにそれは集約されている。

「それに買いたいものもあるし。」
「急ぎなのに寄り道?」
「急いで買うからすぐに済むし。」
「ふーん。何を買うのか…っと、こういうこと女の人に聞くのはマナーがなってないんだっけ。」

嫉妬云々には気が回らないというのに、妙なことは心得ているんだなと思った。
教室に向かいながら、ゆかりはそんなことを考えていた。

「いや、この前往代にそう言われてさ。」

茜なら彼にもずばっとそういうことを言えてしまえるだろう。
ゆかりは彼女がそう口にした事、そして彼が彼女の何気ないだろうそれを覚えている事に納得した。

一一一一一一一一一

「ご、ごめんね、私急いでるし、その何ていうか。」
「もう少し話聞いてくれよ!!」
「や、その、ね・・・。」

引き止められてたじろく茜ッチが俺に視線をやるが、俺は生憎男女のアレコレに巻き込まれて平然と出来る程やわじゃない。
両手を挙げて、俺を見るなと合図を送る。

大体モテすぎなんだ、茜ッチも湊も。
というか今の寮のメンツ、俺以外みんなモテすぎだっつの。
・・・あーあ、世の中顔だよなー。
何て悠長な事を考えていると、2人の空気が怪しくなる。

「ちょっとぐらい話聞いてくれたっていいんじゃない?」
「った・・・。」

多分タメ、他のクラスだろう男子が茜ッチの二の腕を掴む。
僅かに顔をしかめる茜ッチ。
そうだ、確かそこって一昨日のタルタロスで斬撃食らったとか言って無かったっけ?

あ、やべ、これは助けなきゃ、なんて思って一歩を踏み出そうとする。
が、それより先に俺の横を過ぎていった、青の気配。

「っ止め・・・!」

あ、あいつだ。
俺を追い越して駆け出した我等が隊長の気配に、俺は無条件で安心してしまう。

「っだから痛いんだっつーのっ!!」

だが、茜ッチの方が一枚も二枚も上手だった。
駆け寄った湊が男子に制止をかける前に、豪快な蹴りを絡んでいた男子のひざ小僧にかます(ちょっ、スカート気にして!?)
あーあーあーあ。
びびりながら逃げていくその男子に少しだけ同情しながら、俺は茜ッチの方に近づく。

「あーもー!何あの意味わかんない男子!セクハラ!?」
「・・・落ち着いて往代。」
「これが落ち着いてられるかっての!!」

興奮でカッカしている茜ッチを諌める湊に、先ほどの動揺はもう見られない。
全く、厭味なぐらいポーカーフェースだ。

「大体!順平が助けてくれないからこういう事になるんだよ!」
「ひどいな、順平。」

今度は怒りの矛先が俺に向かったらしく、湊と一緒になって俺を責める茜ッチ。
確かに助けようと思ったのに。
俺達の制止より茜ッチのメガトンキックのが早かっただけだ。
というか湊もひどいな!

言い返すべきか逃げるべきか迷っていると、天の采配か(それとも魔王の手招きか)我等が担任が職員室から顔だけ出して俺を呼んだ。
思い当たる事がありすぎて最早わからない罠(成績か?成績なのか!?)

トボトボ歩き出した俺を、転校生コンビが見送ってくれた。
桐条先輩の呼び出しもあるから、早く終わる事を切に祈る。

一一一一一一一一一一一一

「あれ?順平。」
「おー?ゆかりっちじゃん。買い物?」

結局呼び出しから30分、課題についての説教で、急ぎ足で駅前を横切った所でゆかりっちと会った。
まーね、と返事をしたゆかりっちが、さりげなく紙袋を鞄に仕舞う。
気になったが、あんまり深く聞くと地雷を踏みかねないから、そのへんは自重した。

「つーかさー、聞いてくれよ。茜ッチったらスカートだっつーのに男子に回し蹴りかましちゃったんだぜ!?容赦ねーよなー・・・。」
「うわ・・・でも容赦ないのはリーダーもいい勝負。今日も告白一刀両断。」

うわぁ。
どっちもどっちだなー、なんて結論を下しながら信号待ち。
目の前を横切るピザの宅配車。

「あの二人ってなんか似てるよね。」
「そうかー?寧ろ正反対だと思うけど。」

再び踏み出した一歩。
雑踏に紛らせるように、ゆかりっちはペルソナと呟いた。
そういえばあいつらって最初のペルソナお揃いだよなー。
・・・考えてみれば妙な話だが。

「あー、とね、それにしても有里君ももう少し他人を気にするべき!とばっちり食うのは真田先輩でこりごりなんだから。」

暗くなりかけた空気を、ゆかりっちが慌てて払拭した。
あの二人のペルソナについては、寮内でも何となく触れられない話題になっている。
だってそうだろ、心のありようそのものの話なんだから。

「あ、でも今日珍しいもん見れたぜ。茜ッチ助けようとしてあいつ慌てて走って。」

口にして違和感を感じたのは、ゆかりっちがぎょっとした顔でこちらを見ていたからだけではなかった。
慌てふためく有里湊。
そんなの。

「でも茜になら慌てそう、有里君。」

相槌を打った所でゆかりっちは苦笑した。
結局どう逃げを打っても結論に帰結するんだと、わかってしまったから。

結論、二人は、特別だ。
(それも俺達と隔てられた所で)

一一一一一一一一一

その日集められたのは、タルタロス探索のペースが落ちたという桐条先輩の発案によるものだった。
つまり強制探索。
それでもリーダーは冷静に、少しだけ眉を上げた後メンバーを決める。

最前を行く有里君の数歩後ろを茜が追い、茜の薙刀の分だけ距離を空けて続く自分、そしてすぐ後ろに順平。

順平は首を傾げたが、私は、やはり似ていると確信を深めた。
だってほら、緑の月明かり、こんなにも絵になる二人なんて、私は他に知らない。
美男美女の先輩達だってこうして並んだ、作り物めいた二人には敵わない(それが人間の限界だ。)

二人は、似ている。
姿ではなく、存在としての在り方が。
そう、どうして同じ存在じゃないのだろうか、そう思うくらい。
例えばこんな緑の月明かりの下、時折二人の影が重なって一つになる。
その影のありようの方が、よっぽど本体よりも、ひどく自然だ。

「ゆかり?」「岳羽?」

どうかしたのかと、青と赤とが振り返る。
なんでもない、私はそう返事をして探索を再開する。
そうだなんでもないのだ、気にしてどうにかなる話ではない、人のありようだなんて。

(だって、消えそうな儚さが似ている、だなんて。)
考えたくなんてなくて、今日も私は思考に蓋をする(だってその瞳は、どちらも優しいんだ、結局は。)











エンハーモニック











同じ存在なら



結末は重合・融解


⇒次ページおまけ
一一一一一一一一一一一一
あとがき

という事で、女主の名前は往代 茜で統一。
ご協力ありがとうございました。
夢はやらない方向で。
でも多分名前はあんまり出さない。
主×主に限り、彼女・リーダーに置き換えるとややこしくなるから頻繁に使います。

うちの子設定的作品でした。
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