短編

□君に捧ぐ詩
1ページ/1ページ

世界が終焉を迎え、数日が過ぎた。
景色は見渡す限り白、白、白。
そして、その中にぽつりと冴える二つの色、赤と黒。

「……玄冬…寒いね…」
「………あぁ…」

世界に唯一響く、雪以外の音。二つの声。

「でも、嫌じゃないな…。大好きな雪に囲まれて……」

花白はそっと微笑んだ。
だが、その笑みは日に日に弱々しくなっている。

それに玄冬が気付かない筈はない。

いくら好きとはいえど、綺麗とはいえど、雪なのだ。
容赦なく体温を奪っていく。
この世の総てを奪い去ったように、容赦なく。
そして、きっと、花白自身も自らの限界を見い出しているのだろう。
その為か、玄冬に寄り添い繋ぐ手の力が心なしかいつもより強く感じられた。

「……こんなに…綺麗…。何もかも真っ白で……。ねぇ…玄冬…、きっと…人間は僕たちを恨んで死んでいっただろうね…。……そんな僕も…この世界より君を選んだ僕の罪も……この雪みたいに…真っ白に…できるのかな…」

はは…今更…こんなこと言うのも可笑しいよね…。

「……もう終わったことだ。何も言うな」
「…うん…」

玄冬は彼の震える体を力強く抱き締めた。
まるで冷たく、氷のような彼に、いつまでも失われることのない自らの体温を伝えるように、力強く……。
すると、花白も嬉しそうに笑う。だが、それは先程よりも、更に弱々しい笑みで。

「………玄冬…、最期まで…こんな僕に付いてきてくれて……本当に…嬉しい…」

薄い唇が、一句一句をハッキリと伝える。雪の音にかき消されないように。

「…本当に……ありがとう……。やっぱり……どんなに罪深くても……君を選んで……よかった。でも……ごめんね…何があっても…君の側に居るって…言ったのに…。…僕、もう…ダメみたい……」
「……………花…白……?」


暫く、雪の積もる音だけが響く。


「…それでも…僕は…他の…何よりも」




………君が好きだから。

虚ろな瞳が閉じると共に告げられたのは、永久の別れのことば。

「………花…白…?花白…!花白っ……!」
玄冬は叫んだ。誰にでもなく、自分にでもなく、創世主にでもなく。

いずれこうなることは、独りになることは承知していたのに。
それでも幾度となく、腕の中でみるみる冷たくなる彼の身体を強く抱き締め、叫んだ。


そして、その髪に積もる雪と、どこからともなく舞い落ちた、紅い花びらをそっと払い、その穏やかな顔を見つめた



「…花白…お休み…」



しかし、彼は死んではいない。
空から降る、白いもの。

雪、白い花。

そう、花白は言っていた。

ならば、それこそ、この世界に永遠に、止めどなく降り積もるもの。
自分と共に、唯一、この世界を埋めていく。
ならば、どこまでも、共に行こうではないか。

永久に。


花白、白花と共に。


これでいい。これが、自らが願った末路なのだ。


そうして俺は、この、永久に春を迎えることのない、閉ざされた箱庭で

生きて行く。花白と共に。
もう、巡り逢うことはなくとも。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ