短編

□To a favorite person…
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今日は二月十四日。
おれ、渋谷有利は眞魔国に居る。
そして、今日の日程こちらの世界が愛しく思えた時はあるだろうか。
と言うほどではないが、とにかく今日はこちらの世界に居て良かったと思う。
そう、今日はバレンタインデーなのだ。モテない人生を歩んできたおれにとっては苦い思い出しか残らない嫌な日だ。
いつもチョコをくれるといえば母親くらいで、毎年、この日の教室はおれから見ればまさに地獄絵図同然。
だが、こちらにはバレンタインという風習そのものが無い為、その、いやぁーな気分を味わう必要はない。と、思ったのだが…。

それは、突然起こった。

窓から見える景色は暗い空と、大きな樹木…森と、城の城壁だけだ。。
太陽はとうに落ち、月がが高々と輝く、夜の血盟城の王室。
「ユーリ、居るか?」
「ん。ヴォルフ、どうした?」
ノックもせずに入ってくるのはいつものこと、現れた金髪。
「いや、今日は『ばれんたいんでー』とかいうやつなんだろう?ほら、ぼくからだ!」
と、彼、フォンビ―レフェルト卿ヴォルフラムから手渡されたのは、ピンクの包みに、赤いリボン、そして花とカードが添えられた小さな箱。
「え…、…これ…」
「だから、今日は『ばれんたいんでー』なのだろう?コンラートが『ほんめいちょこ』とやらは愛する者に捧げるものだと言っていたから大賢者に詳しいことを聞いたんだ。………嫌…だったか…?」
途端に、誇らしげだった彼の表情はみるみる萎んでいった。
「そんなわけないだろ?嬉しいよ、ありがとうヴォルフラム」
「べ、別にお前の喜ぶ顔が見たかったからとかじゃないからな!グレタがどうしてもというから…ぼくはただ、保護者としてだな…、手伝っただけだからな!」
頬を赤く染め、声のトーンが一気に高くなった。
これが世で言う「ツンデレ」なのだろうが、有利はその手のことに関しては興味がない為、これは勝利の専門分野というか、趣味の方面用語だ。
「とにかく、嬉しいよ。本当にありがとうな、ヴォルフもグレタも」
「ついでに言っておくが、そのチョコはぼくが作ったやつだ。グレタからは後で渡されるだろう」
「あ、そうなのね」
一瞬、気まずい静寂が二人を包んだ。
「……ぼくの『ばれんたいん』がそんなに不安なのか?」
「いや、そんなんじゃないって。なぁ、早速食べていいかな?」
有利は期待を込めたような口調で言った。
婚約者と、その贈り物を交互に見つめながら。
「ああ、いいぞ。おまえが食べなければ作った意味がないからな」
その言葉を聞くと、有利は早速包みを解いた。すると一瞬、息を呑む。
「すごっ…」
予想外で思わず言葉が零れてしまうほど、その中には美しいチョコが並んでいた。
有利の考えていたものは…なんというか、もっと個性的な造形をしたものを想像していたのだ。
なにせ、あの絵を描く彼の手作りなのだから。
だか、予想は大ハズレで、中には一粒一粒が宝石のように輝いたチョコが綺麗に収まっている。
「それでは、少し勿体ない気もしますが…。いただきます」
壊れ物を扱うかのようにその一粒を手に取り、慎重に口へと運んだ。
「あー、なんかチョコが口の中で蕩けて。独特の風味と味が何とも」
それからは、何かに操られるように、彼はチョコを口へ運び、もう残りは僅かになってしまった。
「あれ…、何か…クラクラしてきた…。あれ…」
視界がぼやけ、足元がふらつき、頭がぼーっとしてきた。そして有利はバランスを崩し、ベットへと倒れこんだ。
「何でだろう…、…身体が…熱い…」
身体中が熱い。特に頬に熱が集中し、気分が高揚する。
思考が上手く結べなくなり、視点も曖昧になっていく。
「…はっ…、はぁ…、ヴォルフ…なんか…頭…痛い…クラクラ…する…」
ヴォルフラム…。と、有利はヴォルフラムの服にしがみついた。そして、潤んだ瞳で彼を見つめる。
「…ユーリ…、そんな目で…、ぼくを見るな…」
「……?ヴォル…んっ…」
突然、彼の顔が近づき、唇に生暖かいモノが触れたかと思うと、口内に何かが侵入してきた。
更に、思考がぼやける。頭の中が白く染まっていく。歯列をなぞられ、舌を絡ませ、静かな室内にはくちゅくちゅと粘着質な音が響いた。
「…ふっ…ヴぉル…、ふっ…やっ…」
突然の行為に思考がついていかないのか、それとも呂律が回らないのか、有利から発せられる言葉は不安定で聞き取り難い。
それでも状況は把握できているようで、弱々しい抵抗をしている。
「熱い…」
抵抗する有利の腕を頭の上で押さえつけ、ヴォルフラムはそっとその頬に触れ、潤んだ瞳をじっと見つめると、再びキスを落とす。同時に彼の両手を解放した。
「…はっ…、ヴォル…熱っ…」
だが、二度もキスを与えられたにも関わらず彼は警戒するどころか、湿った唇で浅い息を繰り返し、自らシャツのボタンを外し、胸のあたりまで開いた。
「…っ…、み…ず…を…、あっ…」
水分を求め、有利がベッドから起きあがろうとした時、その行く手をヴォルフラムが遮り、押し戻した為、彼は再びベッドへと倒れこむ形になった。
「…なん…で…」
「……大丈夫だ」
ヴォルフラムはそっと呟いた。そして、その長い指がシャツのボタンを更に外し、完全に前が開いた状態になる。
すると有利は不安げな表情で彼を見上げた。
「…はっ…、ヴォル…ふ…?」
いつもの余裕はどこへいったのやら、目の前に居る彼はどこか切羽詰まったような顔だ。
「ユーリ…」
「…えっ…」
突然胸の辺りが痒くなったと思うと、次の瞬間、一肌程度熱を感じた。
有利は恐る恐るそこを見た。するとそこには自分のそれを片方は舌で、そしてもう片方をその指で触る、彼の姿。
「…や…め…っ…、ヴォル…、あっ…!」
胸にあった指が腹部を通り、下半身のそれに触れたかと思うと、ファスナーを降ろす音がした。
「…だ…め…っ、そこは…、や…っ…」
「こんな状態なのに…それでも…、か?」
暫く黙っていたヴォルフラムの声が、どこか意地悪く聞こえる。
「そんな…、う…そ…、はっ…、ん、やめ…」
いくら否定しても、意思には関係なく身体は反応した。
彼の指が動く度に背中を反らし、最初は嫌がっていたにも関わらず、声も鼻にかかるような矯声へと変わる。
終いには、最初の抵抗はどこへやら、有利はヴォルフラムの首に腕を回し自分へと引き寄せた。
「…ふぁ…っ…、ヴォル…フ…ラム…」
「ユーリ…」
どちらからともなく唇を重ねる。
「……強引…は…やだ…。でも…今だけなら…」
「…すまない…、ユーリ」
そして再び、長いキスを交わした。
二人の夜はまだ始まったばかりだ。

翌朝。
「ユーリ、起きろ、朝だ」
「…寒っ…。お、珍しいじゃん、おれより早いなんて…うっ…、痛てて…、って、ヴォルフ…!!」
腰の痛みと彼の姿を見てで思い出した昨夜の情景が頭の中でスラッシュし、途端に有利は赤面になる。
「ユーリがまさかあんなに積極的だったとは…ぼくも予想外…「うわーーーーっ!!!言うなーー!!!ぎゃーーー!!!」
今、一番聞きたくない話を持ち出され、ユーリはベッドから勢いよく飛び降りた。が…
「えっ、おれ、裸!?い、痛っ、腰が…腰がっ…!」
「あぁ、ぼくもあれには驚いた。何度ユーリがねだってきたことか。隠されし、へなちょこの本性だな!」
「や、やめてくれ。そんな本性…絶対ごめんだーーーー!!」

血盟城の朝は騒がしかった。


end

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