MAIN
□ココロ
1ページ/2ページ
「君が女の子だったらよかったのに」
その問題発言に、読んでいた教科書から顔を上げる。突然のことに顔をしかめるが、相手の表情が真面目なので、文句も言えなくなる。しばらく視線をさ迷わせたのち、ノートに視線落とす。
「なんで前世の恋愛話を聞いたのにそんな返事返すんだよ」
すると、いつものあの笑みで俺を見据える。他校の制服ながら、その堂々とした姿は尊敬さえ覚え、溜息が絶えない。
「君のように僕の愛を承知の上で、いつも他の人の名を呼ぶ。罪深いと思いませんか?」
居残りで課題をやっていた俺の前の席に座るこの男は意味ありげに片手をついて笑っている。
前世でも変態だったのかと、顔をしかめて課題に視線を戻した。
「お前の愛は重いんだよ」
「おやおや…照れなくてもいいんですよ。まぁそんなところも好みですが……」
その言葉に顔をしかめると顎に手をやられ顔を上させられた。
「何?………んうっ」
文句を言おうとすると、唇に温かいものが重ねられる。湿る感覚…遠退く感覚…触れる舌…意識が停止して目を見開く。
「ギャーーーーーーッ!い、い、いま何しやがったこの変態ーっ!」
「キスですが何か?それにしても色気がない」
にこにこ人当たりのいい笑顔で俺の頬を撫でながら、導かれ抱き寄せられた。
するといきなり大きな音が鳴りドアが開かれる。
「僕の学校で風紀を乱すとはいい度胸だね、変態ナッポー………………噛み殺す」
「ヒバリさん?!どうしてここに?!」
そこには並盛の歩く秩序。ヒバリさんがドアを壊して不機嫌そうに立っていた。そりゃ大嫌いな骸が大好きな学校に不法侵入していたらそうもなるよね…と、少なからず同情していると骸が俺を抱きしめたまま立ち上がりそのまま抱えあげられる。……これって姫抱きって言わなかったっけ…。
「僕のに手を出すとは、いい度胸してるね」
「おやおや、ヤキモチですか?」
「この学校の何もかもは僕のものだからね」
ヒバリさんが骸に向かってトンファーを振り回しながら、攻撃をしかける。華麗に舞うトンファーを軽やかに避けていく骸は、俺を抱えたままだというのに動きが鈍ることなく動く。それに対してヒバリさんは戦い辛そうになってきたのか、顔をしかめている。
「邪魔だよ君。早くその変態から離れないと怪我させるよ」
「ひいっ?!えっ、ちょっ!!急にそんなこと言われても!あーもー離せっ骸!俺まで巻き込むなぁぁあぁっ」
「彼は沢田綱吉、君の唇を僕に奪われたのが気にいらないんですよ」
「は?いや、話聞いてる?」
「彼も僕同様、君に興味があるということです」
話を聞かない骸が俺を抱えたまま廊下に出る。
「まてまてまてまて〜〜このまま外行く気かーーっ?!」
慌てて抵抗して骸から離れようと暴れる。こんなとこ学校の誰かに見られたら恥ずかしくて学校なんか来れなくなってしまう?!
「おや?嫌ですか?」
「嫌に決まってるだろう!!」
抱えられたまま口論していると、急に何かが俺の身体に巻き付いて、骸から離される、次の瞬間。俺はヒバリさんの腕の中にいた。驚いて目を見開いていると、ゆっくり下ろされる。はっと我に返ると、ヒバリさんが俺の前に立ち骸と向き合っている。
俺の身体から巻き付いていた…………仕込みトンファーの鎖が離れた。
「君はもう帰りなよ。ここに居られると邪魔だから」
「え?でも課題……」
課題が済まないと帰れないと、困った様子で呟くと、ヒバリさんに睨まれる。俺そんなにそばにいちゃダメなのかなと、目頭を熱くして俯くと、
「か、帰りますっ」
踵を反して走り出した。俺は慌てて教室に向かうと鞄に教科書やノートをつめる。そのまま教室を飛び出した。正門までダッシュして駆け抜けると校舎を振り返る。頭の片隅で課題どうしようかなと考えていると、黄色な物体が飛んでくる。首を傾げて見上げていると、俺の肩に止まった。不思議そうに見ていると、足に何かが着いている。手を前に出すと、手に止まる。
「ヒバリさんの鳥だよな?…………こいつ?」
「よめっ!よめっ!はやく、よめっ!」
「脚に着いてるやつを?」
俺が聞くと羽を広げて返事をする。メモを取ると、羽ばたいて帰っていった。俺は見送るとメモを恐る恐る広げる。
『先生には課題は明日出すと伝えてあげるから』
…………ヒバリさんって本当はいい人な気がして来た。
俺はもう一度校舎をみるとさっきと違って心晴れやかに家に向かって歩きだした。
⇒その夜の話