□さよならはお互いの心に刺をさす哀しい言葉だから
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眠るあなたの安らかな顔を見て、
これでよかったんだと自分に言い
聞かせた。今日、僕はイタリアへ
発つ。マフィアと群れるために。
そもそも群れたくはないし、並盛
を離れたくはない。だって、僕が
いない間一体誰が風紀の乱れを直
すんだい?誰が夏祭りの騒ぎを取
り締まれる?一体誰が、君の手を
握ってやれると言うんだ?今はま
だ、手を伸ばせば触れられる距離
にいるけれど、あと2時間もすれ
ば、僕は飛行機の上、届かない。

だから、彼女には本当のことを何
ひとつ伝えてない。何も説明せず
に去った僕を憎んで、嫌いになっ
てしまえばいい。その方が、きっ
と幸せになれるんだから。君はい
つも、何も言わずに草食動物を咬
み殺しにいく僕を、どうして黙っ
て出ていくのか、と問い詰めたも
のだった。そんな彼女だから、僕
はこの方法を選ぶんだ。強いのに
綺麗で、だけどはかなく弱くて。
そんな君だから、こそ。

そろそろ時間だ。バイクのキーを
投げ上げて、キャッチする。荷物
は草壁に持って行かせた。あとは
僕自身が、空港に行きさえすれば
いい。ドアに向けた視線を、君に
戻して囁く。「ごめんね。僕は好
きだよ、多分ずっと。…じゃあ、
また」僕らしくない言葉のオンパ
レード。だけど、きっとこれが最
後だから。俯いてから、ドアを開
けて歩き出した。また、いつか。

「ばーか、恭弥のばーか。寝てな
いよ、あたし。いつもなら気付く
じゃんか、」ほんと、ばか。あた
し、知ってるよ。恭弥がマフィア
になることも、そのためにイタリ
アにいくことも、それが今日だっ
てことも。だからあたしは恭弥が
帰ってくるのを待つよ。待ってて
、とは言わなかったけど、さよな
ら、ともあなたは言わなかった。
だから待っててもいいよね。電話
もメールも、手紙だって送らない
から、待ってるだけだから。それ
くらいは、せめて。「じゃあね、
恭弥。またいつか」


さよならはお互いの心に刺をさす哀しい言葉だから
(いえない)(いわない)

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