短編
□(銀時甘)風邪と恋病
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風邪。先週あたりからこいつに悩まされている私は、虚ろな目で独り戦っていた。
「ゴホッ、ゴホッ」
私は布団のなかでひどく咳き込んだ。
「おーい名無しさんー。大丈夫か?咳ひどくなってきたみてェだなぁ」
そう言いながら和室の襖を開けて銀時が入って来た。
私の隣に腰を落とした銀時に、ふと疑問も抱き聞く。
「あれ?銀時、頼んだ薬は…」
私の頭を撫でていた手を制止させ、様子を伺う。
「ん?あぁ、買ってきたぜ」
「って、」
「コレ飲んどきゃ風邪なんてあっという間に治る」
「イチゴ牛乳で治るかァァァ!!」
銀時の差し出したソレは、カルシウムたっぷりのピンクの箱。
苺がウインクした銀時の常備品。
風邪薬を買ってきて欲しいと頼んだのに、イチゴ牛乳を差し出された私は落胆を浮かべる。
「まったく、まともにお使いも出来ないの?」
「いや違ーよ。ちょうど切らしてたんだよイチゴ牛乳」
「じゃなくて!あたしは薬を買ってきてって行ったのよ!
く す り を !」
はぁ、と溜め息をついて上半身を起こした。
「もーいいよ。銀時に頼んだあたしが間違ってた。はいはい、自分で行きますよ」
そう云って立ち上がろうとする私を銀時が慌てて抑え込む。
そんなおり。私を動かせまいとする顔に、心配されてるんだなぁと愛しさが込み上げて来たりするもんだから質が悪い。
「ダメだって名無しさんちゃーん!風邪が悪化しちゃうでしょーが。銀さんが飯作って来てやっから、大人しく寝てなさい!」
「ご飯はいいから薬くれって云ってんのよ天パっ!!」
襖に足をかけた銀時に側に置かれたイチゴ牛乳を投げつけた。
振り向いた銀時は見事にキャッチして、ポリポリと頭を掻く。
私が睨み付けていると、しょーがねぇなあと呟いてイチゴ牛乳を口にして喉を唸らせている。
前言撤回
こいつはあたしの事なんて全然心配してない
銀時に背を向けようと寝返りをうつが、それを制したのは銀時だった。
「銀時?」
いつの間にか隣に移動した銀時は何も云わず、私の目から視線を放さなかった。
銀時の真剣な表情からは、何も悟る事が出来ず名前を呼んだ。
するとその手がそっと私の頬に触れ、ひやっとした感触に一瞬目を閉じた。
瞬間、苺の甘い香りが鼻腔いっぱいに広がる。
「んっ、」
目を開けなくても解る
銀時の体温
そっと唇が離れ、近くで見る銀時に頬を染めてしまう自分が恥ずかしい。
「あれ、効くと思ったんだが駄目だったか?顔、真っ赤になっちまったな」
見下ろされた視線に耐えられなくなって、顔だけを背けた。
「名無しさん、薬買ってくっから寝とけよ」
立ち上がる着物の音と、襖をかする音で銀時がもう隣に居ないことが分かった。
なんだか急に寂しくなって、銀時の名前を呼んだ。
体を起こして俯いている私に振り向いた銀時。
何も云えず、呼び止めた事を少しだけ後悔した。
「い、行かなくていいよっ」
「あぁ?さっきまであんなに─
「だから、」
銀時が話し終わるより速く言葉を紡ぐ。
布団を見つめていた視線を銀時へと移し、口を開いた。
「もう……治ったから、」
そう云うと銀時は少し目を見開いて、私と目の高さを合わせた。
「甘くてよく効く薬だったろ?」
そう笑う貴方が
どうしようもなく愛しくなる
「うん、子供の薬かと思ったよ」
ポーカーフェイスを気取ってみたけど、どうやら無理そうです
イチゴ牛乳の
甘い口付けが降ってきた
end
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