短編
□こちらこそ
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「ねぇ、総悟」
「なんでさァ」
「これ、見て?」
そう云って名無しさんが差し出したのは、一枚の紙切れ。
すっかり色褪せた風貌でも、俺にはソレがなんだかすぐに分かった。
「懐かしいね」
かさりと折り目を広げると、見覚えのある字と少しだけ若い俺達が写った写真。
ソレは、5年前の手紙。
たまたま見回りをサボっていた俺が入った甘味処。
そこで働くひとしきり綺麗な女が名無しさんだった。
看板娘、なんて言葉はこいつの為にあるのだと俺は思ったくらいだ。
そうして出会ったのが、俺達。
もう長い付き合いだ。
隣の愛しい女の髪を梳こうと、手を伸ばそうとしたらその可愛らしい口から笑い声がこぼれた。
「どうかしやした?」
「これ、あたしが新撰組の女中になった時に総悟に送った手紙よね?」
「そうでさァ」
「…こんな恥ずかしいこと、云ってたんだね…ふふっ」
名無しさんがあんまり恥ずかしそうに笑うから、俺のサディスティック心が悪さして、冒頭部分を声に出して読み出した。
が、そこで言葉がつまった。
となりの名無しさんを見ると、俺の行動なんか最初から解っていたかのように、憎たらしい顔で笑っていた。
「どーしたの?」
ニヤニヤと俺を見つめるその目に、指でも突っ込んでやろーかとか思ったが、そこはやっぱり可愛いこいつ。
そんな事出来るハズもなくて、今度こそ名無しさんの頭を撫でて引き寄せた。
「名無しさんのくせに生意気でさァ」
「そ?でも、嬉しかったでしょ?」
”助けられてるのは、総悟だけじゃないよ“
「…そういう事にしといてやらァ」
“あたしだって助けられてる”
「もう、素直じゃないなぁ」
“一番側にいて、笑ってくれる”
「名無しさん」
「ん?」
“だから、この言葉を贈ります”
「ありがとう」
「ふふっ、こちらこそ」
“そして、これからもよろしくねっ”
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大切な方への後書き