oRIginAl

□その手から__「前編」
1ページ/1ページ


朝は嫌いだ。


それは法廷の朝。

判決の朝。

・・・執行の朝。


私はいくつかの朝を見てきたが
生きている感覚のある朝は

なかった。


この手で全て拒んで、全てを見ないようにしてきた。 


奴に会うまでは_____。



‘その手から’


「・・・」


血の匂いで目が覚める。
ここは薄暗い洞窟の中。

日の昇らないこの夜中に、
あたりを眼球を動かして見やる。


「ラーク、起きてる?」

傍に背を向けて寝ている男に声をかける。
その男はラーク。

金髪を黒帽子でかくしており、
質素なTシャツとズボンを身につけ、
銃やらナイフやら、肌身離さず常備している。

「当たり前だっつーの。
 こんな血の匂いしたトコで眠れるか!」

ラークは声を潜めながらも、イライラを隠さなかった。

続けてまだ口を開く。


「アリア、お前銃は?」

彼女は
枕元の銃を手にとる。

彼女はアリア。

左目を包帯で隠しており、
あとの両腕、両足も包帯で包まれている。
薄い生地のタンクトップにはナイフやらが刺しこめられており、
短パンの赤いベルトには、ひときわ大きい剣がかけられていた。

「昨日の野郎どもに全部くれてやったわ。
ラークはあるんでしょ?」

「あぁ、まーな。」

「じゃあ私はサバイバルナイフで殺るわ。」

「じゃあ俺は銃で。」

アリアはナイフを片手に
ラークは銃を両手に掲げた。

今夜は月が出ていない。

奴のせいか?

何故かこのまま日が昇らずに
執行の朝を
妨げているようだ・・・。


「おい、アリア。」

「なに?」

「・・・気づいてるだろ?」

「だから何?」

「しらばっくれんな・・・。
 左目だよ。」

「・・・・」

つぅっと一筋、
赤い血が左目から流れた。
包帯は血を吸いきれず既に意味はない。

「・・・大丈夫。
 気にしてる暇なんてないわよ。」

「だがな〜・・・」


   “バアァァン!!”


銃声が夜の闇を裂いた。

ラークの持つ銃口から、白い煙がたっている。

   
   “ビシャッ”

洞窟のすぐ近くから、何かが降ってきた。

人だ。
   一応。

「行くわよ。」

「・・・」

アリアは外へと歩き始めた。


ラークは、はぁっと溜息をもらす。

「お前は悪魔に身を売ったんだぞ・・・っつーの。」

もう聞こえてないから、どうでもいいけれど。

きっとアイツは死ぬとか、生きるとか
どうでもいいのだ。

重要なのは 殺すこと。

人を滅すること。

それ以外なくて、それ以外いらない。



だからあの手は 全て 全て

親も 財産も 身体も 命も

ただ心だけ残して














   “ビシャッ”




「・・・・」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ