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□その手から__「後編」
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彼女が人ではなくなったのは、
2年前のこと。

随分昔のようにも思えるし、まるで
ついさっきにも感じる。

彼女は人ではない。

悪魔だ。


それでも俺はアリアをずっと守ってきた。
そして愛してきた。

・・・本人、気づいてないだろうが・・・。


    ‘その手から’



    “ザシュッ”

「ぐぁあっ・・・!」
「うをぉお!!!」
「前行ったぞ!」
「弾はあるか!?」
「うあがぁあ・・・!」

洞窟を一歩でると、いつもの日常風景が繰り広げられていた。

敵の数は、約20・・・30人?
わからないが、確かなのは彼らは俺らの命を狙っていること。

「はぁ・・・むさい男共がわんさか群れやがって・・・。」

その中で、アリアはナイフ両手に敵の喉をかき切っていた。
人間にしては速すぎる動きだ。
血を一滴も浴びていない。

悪魔・・・か。  


「命もらったああぁ!!」

  

  “バァン!!”


  
ラークは後ろを見ることもなく、背後の敵を銃で狙い撃った。

「脆いっつーの。」



一方アリアは、もう半分以上敵を倒していた。
ラークは加勢する気が失せ、その様子をただ見ていた。



「この魔女がぁ!!死ね!!」

そう言った男は次の瞬間、首が宙を舞った。
物音もたてずに。

普通、人間の女は首をとばすほどの力は持ってない。
それをアリアは赤子の手をひねるが如く簡単に、かつ美しく・・・。


  “ドタッ”

最後の敵が倒れた。

皆同じような服を着ていたが、この男は隊長なのであろう
大きく立派な銃を手に持っている。

その銃に刻まれた、十字架を思わせるこの紋章・・・。

「イギリスね。」

アリアはナイフを懐におさめた。

彼女の足元は死体でいっぱいだった。
その身は傷も返り血も、何も残していないのに。

「相変わらずスゲーな。」

拍手しながらアリアに近寄る。
こんな光景、見慣れ過ぎていてどうでもいい。

「武器を回収したいところだけど・・・。
探機知付ね、これ。持ち歩かない方が得策だわ。」

「こいつらイギリスの殺し屋だろ?
なんでそんな奴らがこんな洞窟を訪ねてきた?」

「だから、探機知よ。
 ラークのその銃、三日前にフランスの部隊から盗んだものよね。
フランスの紋章があるけど、素材からしてそれはイギリスね。」

「・・・イギリスのはヤバイってか。」

「そうね。特にこの殺し屋___」

「殺し屋・・・か?
俺は分かっちゃったんだぜ?」

よっ、っといいながら、一人の死体を仰向けにした。

そして腕をまくる。

「殺し屋にしては身体が清潔じゃねぇか?
石鹸の匂いがプンプンすんぞ。
大方、こいつらは・・・」

「一般市民。イギリスのね。」

「・・・なーるほど。」

確かにあの国は、他に比べれば裕福だ。
王は戦略に長けており、他国からの信頼も厚いときく。

「警察も俺らにはお手上げか?
死が怖いから市民に行かせようと・・・。」

「半分当たりかも。」

「半分・・・?」

「イギリス王に会ったことないけど、そんな市民を無駄死させる馬鹿ではないでしょうね。」

「・・・で?」

「さぁ、知らないわよ。」

「はあぁ!!??」

「私が知るわけないでしょ。」

「期待させんなっつーの!」

「期待する方が悪いのよ。」

それだけ言うと洞窟に戻って行った。
おそらく出かける準備だろう。
行き先はもちろん

イギリス。




アリアは洞窟に入って、すぐに左目の包帯を取った。
暗闇の中、己の勘だけで目を探る。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

ラークの前では見栄を張ったけれど もう限界ね。



右手で左目を 取る。

ぐちゅ、と音がして、眼球を取り出した。
なにも付いていない色白の顔が血に染められていく。
ポタポタと滴り落ち、そして。

「サタン・・・もう少しまて・・・。もう少し・・・。」

その眼球はアリアの右手の上でドクンドクンと脈うっている。
心臓のように。

「うっ・・・」

全身に痛みが走り、思わず座りこむ。

まだ  死ねない。


しばらくたち、左目から溢れでていた血が止まった。

そして何事もなかったかのように、慣れた手つきで眼球をもとに戻した。


はぁ、っと安心した時。


「アリア!」

「!!・・・なに・・・」

「気配くらい気づけよ。
・・・大丈夫か?」


アリアは何も言えない。
何故だろう。

私は人でないから、痛みなどないはずなのに。
大丈夫なはずなのに・・・。





「出来損ないね・・・。私・・・。」


まだ、朝が怖い。

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