REBORN!
□時空旅行T
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「「…っうわぁぁぁああぁああ!!」」
10年の時を越えて、若干トーンの違う二つの絶叫が轟いた。沢田綱吉13歳。沢田綱吉23歳。同じようで違う、二人の時間がリンクした。
「えっ;ちょっ、何?」
目の前には裸の美丈夫。誰この人?ちょっと待て、この態勢って何事!?何で俺、のしかかられてんだ!?何これ超怖ぇっ!!
てか、心なしかこの人はぁはぁいってんだけど;でもよく見るとなんか色っぽい・・って!違くて!!
突然の事態に付いていけない。えーっと…落ち着け俺。こういう時は取り敢えず深呼吸だ、ひっひっふぅだ!そしたら一から順を追って考えろ、確か───
始まりは、休日恒例となりつつある『一日ネッチョリコース』なんつぅ地獄の家庭学習の最中。
朝から晩まで机に括り付けられ、後ろからの殺気に耐えながらのまさに地獄絵図。
そんな張り詰めた緊張感の中、ある意味最強の勇者が現れた。
「ガバババ──ッ!!ランボさん登場っ!!」
「ら、ランボ;笑い方がジャンル違いの巨人だよ…」
極限状態でも律儀に突っ込む生徒。打って変わって表情一つ変えず見向きもしない家庭教師。彼にとって、格下となるこの牛少年は存在しないも同じことらしい…。
「無視すんなリボォン!お前なんておれっちの…」
───スチャッ
視線はそのままに構えられた先には言わずもがな、彼の愛銃が光る。
「;…ランボ、悪いこと言わないからもうちょっと一人で…」
「そ、そんなの怖くないもんねっ!おれっちのバズーカの方が…ッ!」
───ズガン!
ランボの言葉を遮るように放たれた弾丸は、正にスレスレの位置を通りすぎた。
牛柄の服の右肩部分が露出した。
「わ"ぁぁぁあん!!」
当然のごとく泣き出すランボ。その手にはもちろん例のバズーカ。もはや慣れた展開に呆れて、椅子を立ったところで綱吉は不穏な空気を感じた。
「って逆!逆!ぎゃ─!」
ズガンという重低音と共に、綱吉はあっという間に白い煙にまみれた。
一瞬、盛大な舌打ちが聞こえたのはおそらくリボーンだろう。意外と冷静に嘆く。ああ、ついに俺も‥‥タイムトラベル‥‥。
なる程そうか、起因ははっきりした。だけど‥‥‥何だ、コレ。
盛大にハテナマークを飛ばす綱吉に、目の前の格好良いお兄さんが声をかけてきた。
「…ツナ?」
「は…ハイ;」
反射的に返事をしたけれど、あまりの驚愕で声が震える。獄寺くんや雲雀さんもだけど、美形って黙ってると無条件で怖いっ!
「何泣いてんだ」
「ヒィッ!すみませんっ!」
頭がぐるぐるしてとうとう涙が出てきた。お願いします、とりあえず上からどいて下さい!それから何か着て下さい!!
「…ああ、悪い」
綱吉の必死の願いが届いたのか、格好良いお兄さんは横にずれて、俺を抱き起こしてくれた。相変わらず裸のままで。
「あの──…‥」
お兄さんに背中をさすられて数分。多少の嗚咽を残して泣き止んだ綱吉は、ゆっくりと辺りを見回す。
自宅のリビングより遥かに広い部屋。白を基調とした清潔な空間は、寒々しい印象は全くない。壁に掛けられた絵画や調度品は、見る目がない自分にでも、相当高価な物だと伺える。
どうやら自分は半端ない大きさのベッドの上にいるらしい。天蓋付きベッドなんて、生で見る機会はこれが最初で最後かもしれない。
あれ?そうでもないのか。だって俺はここにいたんだ。日当たりの良いこの部屋で、10年後の自分は昼寝でもしていたのだろうか。俺が地獄を耐えている時になんて奴だ、未来の俺め!
裏切り者─!と、そこまで考えて、何やら大事なことを忘れていることに気付いた。
──ギ、ギ、ギ、
壊れた玩具の様にゆっくりと振り返る。…っやっぱり(泣)!いまだ裸の格好良いお兄さんは、なぜか盛大にニヤニヤしている。怖っ!
「チャオ!昔のボス」
「ちゃ、ちゃお…」
10年経ったって挨拶は基本だろう。
「あの、…どちらサマでしょうか、」
「ああ?何言ってんだ。わかんねえのか!?」
この、人を小馬鹿にしたような物言い。あいつみたい…。
なんたって自分はこの人にのしかかられてたんだ?知らないよこんな人。だって俺、過去から来たんだよ?分かるわけないじゃん。
艶やかな黒い髪は自然に後ろへ流れ、きっちりした印象を与えている。同じ色の瞳は、先程から微塵も逸らされることなくこちらに向いている。
なんだか気まずくなって、彼の観察を諦めた。
「…ここ、どこですか」
「てめぇの部屋だ」
「…てめぇって誰ですか」
「あ?自分の名前も忘れたのかよ」
呆れた様に吐かれた溜め息に、綱吉はビクリと肩を震わせた。
「…念のためです」
聞くんじゃなかったと後悔した。所詮現実逃避に過ぎない願望は、やはり叶わなかったようだ。
「沢田綱吉、23歳独身、職業ボンゴレファミリー10代目ボス、好物ハンバーグ、初恋笹川京子、今だにダメツナ、趣味オンナ漁り、特技夜の寝技、必殺技は目で誘─…」
「待て待て待て待て!!」
薄々感付いてはいた。認めなかっただけで。それでも超直感で今確信した。こいつはあいつだ。
「何デタラメ言ってんだよリボーン!!!」
「正解!」
はぁ───、助けて…。
「話は解った…」
つまりこうだ。
10年後の未来では俺とリボーンは恋人同士で。つまりそういう関係で。リボーンはボンゴレ専属となり、今朝まで長期の海外出張だった、と。
「まあ、普通半年かかる仕事を俺様は一月で終わらせてやったんだ。ツナが寂しがるからな」
「…」
「んで一月振りに顔出したら、欲求不満で切羽詰まったお前にベッドに連行されたんだぞ」
はい嘘──ッ!!
「そっからは大人の事情だから省くが、…なんてタイミングで入れ代わってくれんだおめーは」
「俺のせいじゃない!」
アホ牛め…と何やら呟いているリボーンをよそに、あることを思い出す。
「…何で戻らないんだ?」
そう。とっくに5分なんて過ぎているはずだ。
「まあ、ゆっくりしてけ」
何でそんなに楽しそうなんだよ、リボーン。
格好良いお兄さん、もといリボーンは、彼の性格を表すかのような何とも言えない黒い笑みを見せた。
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