REBORN!
□会いたい気持ち
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はっきり言ってしまえば、なんともつまらない仕事だった。自分にしては珍しい長期の仕事で、明日で本部を離れて一月になる。
抗争はボンゴレ優勢。当たり前だ。こんなちっさな抗争にこの俺が参戦し、尚且つこんな長期任務になっているのには、納得しようにもできねえ理由があるわけだが…、説明すんのが面倒臭え。
まああれだ、下っぱの教育っつうか指導っつうか。この場合の戦陣指揮などあれが一番だ、戦って強くなれ的な。ふざけんな…何で俺がお守りみたいな仕事をしなきゃならねえ。
アジトに帰ったリボーンは、不機嫌を隠しもせずソファに身を投げた。国内外問わず点在する自分専用のアジトだが、この辺は言ってしまえば片田舎。この部屋はほとんど使ったことはなく、まして生活空間にもしたことがなかった。
簡素な部屋にはベッドにキッチン、二人掛けソファに簡易テーブルと、最低限の様式である。
空調のない冷えた部屋に不快感は高まり、テーブルに置きざりになっていたブランデーを無造作に飲み干した。ビンの半分はあったはずだが、それでも一向に身体は温まらない。
ふと、ジャケットから振動が伝わった。依頼は全てボンゴレを通しているため、プライベート用のナンバーを知るものは少ない。煩わしさに切断してやろうと携帯を取出し、乱暴に待ち受けを開いた。
【着信中】
綱吉
出るつもりなんてなかったのに、ディスプレーを見てしまったら何故かCLEARが押せなくなった。
「…なんだ」
『あ。出た』
「ああ?用がねえなら切んぞ」
繋がった瞬間『あ、出た』とは何事か。俺は幽霊か何かか。
『だって基本電話でないじゃんお前』
「ふん、俺の電話は俺のためにのみ繋がってんだよ」
『…ハイハイ』
傲慢な台詞だが、確かにその通りかもしれない。
綱吉の私用で掛けた電話は大抵の場合繋がらない。あれ買ってきてとか今どことか、会いたい、とか。
こちらが話をしたいときには繋がらない電話は、確かに本人のためだけのものだった。
「俺は手応えのねえ仕事のせいで機嫌が悪いんだ。大した用じゃねえなら掛けてくんなウゼえ」
あー、イライラしてるな。
綱吉は相手のイライラをすぐに読み取り、掛けるタイミングを間違えたと苦笑した。
『リボーン…その機嫌は仕事がつまらないせいだけ?』
「…あ?」
リボーンは本当に機嫌が悪かった。一方的に切っていないことが奇跡のようだと、自分で自分に感心するくらいには。
『ねぇ本当にそれだけ?』
「・・・何が言いたい」
綱吉は確信している。
本当にこいつはいい性格になったと思う。いったい自分はどこかで教育を間違えたのだろうか・・・
『ねぇリボーン、寂しいよ…、リボーンがいなくてすごく寂しい』
「…てめえが組んだ仕事だろーが」
『そうだよ?でもリボーンがいけないんじゃん』
リボーンが約束破るから。
穏便に話し合おうと思ってたやんちゃな新興ファミリー潰しちゃって。人の話も聞かないし、その上自分の欲求は通すし。
ちょっと我慢できなくて、たまには暫く距離とろうかなって‥‥
『お前のせいだ』
「文句言うために掛けてきたのかてめえは」
『だって、お前のせいでムカついたのにお前のせいで寂しいし。…なのに……お前は全然平気みたいだしっ!』
誰がいつ平気だって言ったんだよ、馬鹿ツナ。
「お前今相当我が儘だぞ」
知らず溜め息が出る。
少し意地もあって、珍しくしおらしい綱吉にいつものように対応できないでいる。なんでこいつ相手にこんなガキみたいな見栄張ってんだ。
「つなよ…『そうだよね?いいやもう、話したら落ち付いたし』
「おい、」
『ごめん俺がどうかしてたよ』
「おい」
『リボーン明日も仕事なのにね、俺ってば何勝手な「ツナ!!」
思いの外大きい声が出たせいか、早口にまくし立てていた綱吉は黙り込んだ。
「…悪かった」
自然に出た謝罪の言葉は、静かで重い。かつての俺なら「謝る」などという概念は持ち合わせていなかった。こいつが、いつまで経っても甘さの抜けないこの男が、俺の見栄やプライドをことごとく捨てさせる。
静かな謝罪のあと、リボーンはそれまで身を投げていたソファから上体を起こし、おもむろに立ち上がった。
「…お前と一月も離されて平気なわけねえだろ」
テーブルに置いた酒の瓶もそのままに、ゆっくりと歩きだす。薄暗い照明も今夜はなぜかいつもより明るい気がする。
「会いたい。…お前を抱きたい」
瞬間、綱吉の息が止まるのを聞いて、リボーンはふと立ち止まった。
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いつも余裕綽々で、弱い部分なんて探しても出てこない年下の家庭教師。甘えたり近づいたり、恋人として羞恥を譲歩するのはいつも自分で。
そんな関係に、いつも心のどこかで寂しさを感じていた。
今日だって、本当はふざけて「帰ってきて」とか言ってやろうと思っていたのに、不機嫌な声で突っぱねられてどうしても「寂しい」と言わせたくなった。
リボーンは俺に本心を言わせるのに、自分からは何も言ってくれないから。
『会いたい』
と言われて会いたくなった。
『抱きたい』
と言われて、そうされたくなった。
リボーンの声を聞いているうちにどうしようもなく身体が熱くなって、泣くつもりなんてないのになぜか涙が溢れた。
突然訪れた暫くの沈黙に、自分の失態が知られたのかと、無意識に息を詰めた。すると目の前の重そうな扉がゆっくりと開き、その瞬間室内の淡い光が暗い廊下に漏れた。
「泣いてんなよ、」
あぁこの男には、何もかもお見通しなのか・・・。
いつバレたのかと呆然としていると、目の前のリボーンに黙ったまま手を取られる。逆光のせいで、会いたかった顔は確認できないまま、リボーンの身体に傾れ込むように強く引かれた。
閉まった扉に押し付けられて、深く口付けられる。俺が抵抗する気がないと分かったのか、身体を押さえ付けていた手を解き、今度は強く抱きしめられた。
情熱的な口付けと力強い抱擁を受けて、俺はズルズルと力なくその場にヘタリこんでしまった。
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