REBORN!
□吸引性皮下出血
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『これが消えるまでイイコで待ってろよ』
中途半端に高められた熱がもどかしくて仕方ない。全身を這い回る痺れから、一刻も早く開放されたい。
それなのに、わざわざ行為を中断してまで、どうしてこんなことになっているのか。
ちゅっちゅっと可愛らしい音が断続的に響いて、薄い皮膚に歯を立てられてきつく吸われる。
もうどれくらい繰り返しているだろうか。これでは終焉も迎えないまま力尽きてしまうかもしれない。情事の合間の戯れにしては、些か度が過ぎるのではないか。
まるで獣のマーキングの類だと、されるがままになりながらも綱吉は半ば呆れていた。
既に意識が朦朧としている割には、敏感な身体は必要以上に感覚を追ってしまう。鈍く不確かな快感に、ときどき吐息と混ざった喘ぎが漏れる。もどかしくて仕方がないとばかりに。
男はまるで何かに取り憑かれたように、白い肌に噛み付いていた。しっとりと汗ばんだ柔肌は濡れた唇に妙にまとわり付いてきて、堪らない。
一つ、また一つと花びらを散らす度に満足して、欠乏して、求めて、また満たされてを繰り返す。
「も…ぁ、…ぃかげんに…」
寄せた眉はそのまままに、綱吉は限界を感じた。もう茶番は終わりにしろとばかりに、腹部を行き交う黒髪を軽く引っ張る。
しかしながら、所詮そんな俺の意志などこの男の前では無きに等しいわけで。
「もう少しだ、我慢してろ」
顔も上げずに綱吉の抗議を却下して、飽きもせずにまた行為を繰り返す。
何の面白みもない身体を舐め回してまったく物好きな奴だ、綱吉からみれば心底不可解な行動だった。
熟す途中だった宙ぶらりんな熱を持て余しているのに、ひたすらこの傲慢家庭教師が満足してくれるのを待つしかないのか。
憤りに苛まれても為す術はない。情事の最中にこの男の機嫌を損ねるわけにはいかないと、綱吉はおとなしく身を委ねて時を待つことにした。
恐らくそれほど間を空けずに開放されるだろうと当たりを付けて。
しかし、それがなんて安易な考えだったのだと、この後すぐに後悔する羽目になるのだった。
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目が覚めたときには、傍にあったはずの温もりは消えていた。
代わりに残されたのは、軽く目眩を催すほど、無数にちりばめられた鬱血痕。
シャワーでも浴びて眠気を覚まそうと、バスルームに向かったときだった。貧弱で妙に色が白い、さんざん見馴れた身体に残された赤い証。
それはもう、一つのアートと言っても過言ではないほどの徹底ぶりだった。明らかにやりすぎだ。
リボーンの執拗なまでの独占欲にぞくりとする。あの男の所有物と成り果てた悦び、恍惚感。
普段自分は、見える箇所への痕跡を禁じている。情事の産物をわざわざ他者の目に曝すような、不粋な真似はしたくはないのだ。
正しくこれは、その反動からきているのかもしれなかった。
『これが消えるまでイイコで待ってろよ』
お前って本当にロマンチストだよね。
キスマークが消える前に帰る……なんて台詞、今どきどんな恋愛映画でも使わないよ。
お前は今、どのあたりにいるのか。もう俺の手が届かない遥か先なのだろうか。
挨拶くらいさせろといつも言っているのに。
身体に残る赤を一つ一つ指で追って、今は遠い相手を思う。危険な任務だった。だからこそリボーンに任せたのだ。
ヒットマンとしての彼を信頼する気持ちと、最愛の恋人としての彼を案ずる気持ち。対極にある二者が綱吉の中でせめぎ合う。
首筋や胸元、腹部のみならず、背中や尻臀、膝裏や内股にまで及ぶそれを全て追うことはできないが、触れるたび伝わる微熱は、綱吉にそうせざるを得なくする。
隙間なく付けられたそれは、大きさも濃淡も定まってはいない。中には、すでに赤みが引いていて、今日中にも失われてしまいそうなものもある。
しっかりと主張しているものでも、それ程長くは保たないだろう。
帰る。といった言葉は約束ではないが、リボーンはこれまでに言葉を違えたことはなかった。
では今回もその言葉通り、本当にこれがなくなる前に己の元へ帰れるか、と問われても一概には『YES』と言えない。今回の依頼は、そんな仕事だった。
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