REBORN!

□優しい光の中で
1ページ/2ページ


知らなかったんだ、生まれてから一度だってこんな気持ちになったことなど無かったから。
それなのに。それなのに今これ程までに、おそらく人生で後にも先にも無いという程に。







幸せだ。














身体に染み付いた習慣というものはそうそう覆るものではなく、例えば疲労が溜まっていたり飲み過ぎた翌朝であっても、然るべき時間になれば勝手に目が覚めるようになっていた。
もちろん今朝も例に漏れず、何かしら文明の利器に頼らずとも自力で覚醒を果たしたところだ。

──あったけえ…

とはいえまだ目蓋は重く、心地よく温まったシーツの感触は手放しがたい。
俺は無意識の内に胸元にあった温かくて柔らかい塊を抱き寄せた。その何とも心地のよい温もりに滅多に起きない二度寝の波が押し寄せ、男は素直に目を閉じた。


「……ぅ…ん…、」


すると突然呻くような小さな小さな声が耳に届いた。それに呼ばれるように、言うことを聞かない目蓋を無理に抉じ開ける。
胸に抱き込んでいた塊がモゾモゾと動いて、柔らかいふわふわのものが素肌に擦れて擽ったい。


「……ん、………はょ……」


茶色のふわふわから眠たそうな琥珀が現れて、真っ白いシーツの中で微笑む。カーテンから朝日が緩く滲んだその光景に魅了されて、男は思う。
ああ…天使みたいだ、と。


「…おはよう」


見惚れながら言葉を返せば、微笑みは一層深みを増した。


「ツナ……綺麗だ…」


思ったことをそのまま口にすると彼は真っ赤になって小さく反論を示し、何言ってんだと胸を軽くこずかれてしまった。
何故?何を言っているも何もそれが事実なのだから仕方あるまい。ではこんな照れ屋な奴に先ほど思い至ったことを口にしたらどうなってしまうだろう。知らず感嘆の吐息を漏らしそんなことを思った。

きっと噴死とまではいかなくともそれに近いところまではあり得るかもしれない。
そんな想像をしてクスリと笑うと、何も知らない綱吉はきょとんとこちらを見ていた。微睡みの中で、緩やかな朝日の中で。彼はとても美しい。



「身体平気か?」


同意の上の行為だったにしろ無理を強いてしまったことは確かだ。場慣れした(男相手はツナしかいないが)自分がまさかあれほど理性を吹っ飛ばして求めてしまうとは思ってもみなかった。

力なく「平気」などと笑って見せられても、頻りに身動ぐ仕草で無理をしてることがバレバレで。不謹慎ながらそんなツナの健気な姿が愛しくて堪らない。



「…お前…可愛いな」

「っ!…なに、さっきから。恥ずかし……ん、」


だから照れ隠しに怒ったようにつっけんどんな態度で反抗するその唇を塞いでやったのだ。
いきなりの口付けにも綱吉は必死に付いてこようとする。そんな様子が愛しくて、リボーンは片時も離れたくないと目覚めのキスにしてはしつこいくらいに柔らかな唇を求めた。








一方の綱吉は、覚醒直後の脳髄が甘く痺れて感覚が全身に巡り、漸く解放が許されたころには昨晩の秘め事を彷彿とさせるような痴態を晒す羽目となった。
甘かった空気は途端に艶を帯びて羞恥を煽る。


「……っはぁ、」


リボーンのぬるついた唇と身に覚えのある熱で、昨晩の光景が嫌でもフラッシュバックする。

身体中を余すところなく丁寧に触れられてキスされて、淫らな姿を引き出された。灼熱の身体を冷たい指が愛撫してどうしようもないくらいに感じて。乱れて、求めて涙した。

目の前で己をじっと見つめる闇色の瞳は、赤みを帯びてギラついていて。据わった目のその奥に何かとんでもない物を飼っているのではないかと錯覚するくらいだった。



「平気か?」


綱吉の答えが納得できなかったのか、リボーンは再度同じ質問をする。それでも実際に平気なのだから他に答えようがないのだ。
全身怠くて鉛の様だし声は擦れて喉が痛い。腰に至っては最早何の感覚もないけれど。それでも平気なのだから仕方がない。


「うん、…逆に何か…気持ちぃくらい」


体温と同じ温度のシーツが気持ちいい。抱き締められる素肌が気持ちいい。髪を撫でる指が、拭えない疲労感が、甘い空気が。漸くたどり着いたこの至福の朝が、堪らなく幸せで気持ちいいから。


「そりゃ良かった」


その微笑みに見惚れてしまった。いまだかつてこんな風に笑う彼を見たことがあっただろうか。『綺麗だ』なんて台詞はリボーンではなく自分が吐くべきなのだ、と綱吉は思った。
それから、優しく愛された最初の夜のことを一生忘れたくない、とも。



「リボーン…今なんじ?」

「いいから。お前はまだ寝てろ」


ゆっくりと髪を梳かれて額に唇が落ちてきた。
ここで眠気に流されてしまっても時間になったら隼人が起こしにくるだろう。リボーンの腕の中でそんな算段を立てていると、そんな思考を遮るかのように瞼にキスされる。
微かな感触に誘われて、綱吉は目を閉じたまま意識を手放した。






しっかりとしがみ付いて眠った恋人に起き上がることを諦めたリボーンは、腕を伸ばして携帯を取ると何通かのメールを入れる。
こんな状態の綱吉に仕事などさせられないし、獄寺にはいつものように起こしに来られても都合が悪いのだ。


「……邪魔すんなよ…」


小さく呟いて自らも瞳を閉じる。
元来眠りの浅い自分が二度寝したくなる程に心地がいいのだから仕方あるまい。
心も体も温かい、こんな感覚など今まで知らなかった。平和惚けしたような口元の緩みに気が付いても引き締めることはしなかった。

こいつが起きた時に寝坊の理由を知っていったいどんな反応を見せるだろうか。今頃あいつらはどんな顔をしているだろうか。
それを考えるだけで、リボーンは楽しくて仕方なかったのだった。










【送信メール】
20xx/x/xx/ 07:02
To:獄寺隼人
 山本武
  雲雀恭弥
  六道骸
Subject:無題
───────────────
おはよう皆\(^O^)/yeah!!
実は報告があってメールしたんだけど・・・聞きたい?聞きたいかな??聞きたいよね(≧∀≦)!?

あのね〜俺さあ!ついにリボーンと・・・やっぱダメ///言えないよ☆
ってわけでもうちょっとベッドでイチャイチャしてたいから♪♪
今日は俺とリボーンは午後出勤てことで(^ε^)-☆Chu!!

じゃ!また後でね〜☆★















fin...

→あとがき

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ