REBORN!

□愛惜螺旋律※R18
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【act.1 宿命】










“あぁ、私の愛おしい人、本当に貴方なのね…?”




“お願い、その甘い声を早く私に聞かせてちょうだい?”




“ねぇ、キスがしたいの。


こっちを見て。私を見て?”





“ねぇ、私のオルフェオ…!!”













この物語は、貴女のお爺ちゃんのお爺ちゃんの、そのまたお爺ちゃんの小さい頃よりずっと昔。

昔昔のお話です。











    【愛惜螺旋律】













政治、宗教、民族問題。いつの世も繰り返される争いの背景には必ず、女性や子供たちの犠牲が付きものであった。
親を持たない子供が成長し、必要な知識を持たないが為にまた、親のいない子を産んで死ぬ。そんな話はよくあることだ。

そしてこの物語の主人公、リボーンとツナヨシもまた同じ様に、親の顔を知らない子供たちなのである。




「やーい!弱虫ツナー!」

「やめて、…痛っ…!!」

「おいマリオ!やべーぞ逃げろ、アイツだ!」


ボンゴレ孤児院は現在、生徒27名、教師4名の大所帯で賑やかな毎日を送っている。
そこに暮らすのは皆、訳あって家族と暮らすことのできない子供たちであったが、そんな悲しみを抱えながらも彼らは逞しく育っていた。


ツナヨシの母親もまた孤児院育ちで、年下の子供たちの面倒を良くみる、心の優しい少女であった。
東洋の血が混ざったような、どこかエキゾチックな雰囲気の彼女は、その美貌と才能を買われ、孤児院の投資者に養女という形で輿入れをしたのだという。

ナナという名のその少女は、幼い時分よりソプラノ歌手を夢見て育った。孤児院中に響き渡る透き通る様な歌声は、心に傷を負った子供たちを癒し、またナナ自身も歌うことに支えられて生きていたと言える。

しかし必要最低限の教養しか持たず、伝手もないただの孤児に歌手への道が開けるほど、世の中は甘いものではない。
外の世界を知らないナナも、そのことに薄々感付くことができる年齢になっていた。


『君の歌はきっとオペラを、時代を変えるよ。君には歌手としての英才教育を約束しよう』


そんな折の縁談である。
お相手は、多額の寄付や催事の取り仕切りなど、長年に渡り院に尽くしてきた企業家だった。
院長の信頼も厚く、話しはあっと言う間に進んでいく。ナナ自身も、幼少時から良くしてくれたその男に少なからず好意を抱いていたのだろう。

そして何より、二度と訪れようもない夢への可能性に、彼女の心は希望で満ち溢れていたに違いなかった。





それから一年と少しが過ぎた頃。

ナナは、意外な形で里帰りを果たすことになる。





『ナナ…?お前なのかい!?いったいどうしたっていうんだ。しっかりして、ナナ!!』


臨月に入ったナナは、この時点で既に瀕死の状態であったという。
身重の少女が木枯らしに吹かれるには哀れなほどの薄着で、ボンゴレ孤児院の前に倒れていたのだそうだ。

眩しいほどの輝く金髪は色褪せ、瞳は濁って焦点が合っていなかった。
そして何より、人を幸せにするためにと歌ったあの美しい声は枯れ果て、ぜえぜえと喘ぐばかり。


その尋常でない様子を見て、院長は直ぐにナナを保護して出産の準備に掛かり、間もなくして綱吉を取り上げた。
そして朦朧とする意識で我が子を抱いたナナは、突然意識を確かにしたように院長に尋ねたという。


『あの子は…、リボーンは、…どこ?』


実はあの時、孤児院の前に横たわっていたのはナナ一人ではなかった。少女は大きな腹とは別に、生後間もない乳児を連れていたのだ。


『…リボーン…、ツナ…ヨシ…』


お産の最中、別室で保護されていたもう一人の赤ん坊を左に、ツナヨシと名付けた産まれたての赤ん坊を右に抱き抱え、少女はかつての彼女らしい微笑みを浮かべたという。


そしてその数時間後。
ナナは、昔馴染みと大好きな院長に見守られ、16歳という短過ぎる人生を終えたのだそうだ。














「…ったく、お前が何にも言い返さねえから相手が付け上がんじねえか」

「良いじゃん。オレにはリボーンがいるもん」

「甘ったれんな弱虫」


それからいくつもの時が巡り、二人はあと数年で母親と並ぶ年齢にまで成長していた。

ツナヨシと名付けたあの時の赤ん坊は、かつてナナと共に育った孤児たちが教師となり、時には姉となり、母となり育ててきた。
院長も高齢ながら変わらず子供たちを導いて、ボンゴレ孤児院は今も温もり溢れる場所である。



「ね、それより歌おっ。良い?オレに合わせて!」




これが運命だというのか。

生まれたその日に母を失ったツナヨシとリボーンにもまた、類稀なる音楽の才が受け継がれていたのは。

当然ながら母の過去など何も知らない二人は、いつの間にか歌の道へのめり込んでいた。
最初は孤児院で習った子守唄や童謡から。そして、自分たちが歌えば皆が笑うことに喜びを感じ、難しい歌もたくさん覚えた。

教師陣はその歌声で一人の少女を思い、彼女の果たせなかった夢を思った。
ツナヨシとリボーンの才能を伸ばしてやることが、或いはナナへの弔いにもなるのではないかと、信じたのである。





『愛おしい人…なぜ君は去ってしまった?虚無と化したこの世界に僕を一人にしないでおくれ。さぁ、天使も嫉妬するその声で、もう一度僕の名を呼んでおくれ…』



『貴方…ねぇ愛おしい貴方、どうして泣いているの?私はここにいるわ。いつだって貴方の傍にいるのよ。どうか神にも愛させるその声でお願い、私の名をもう一度呼んで…』





リボーンとツナヨシは同じ夢を持っていた。
それはプロのオペラ歌手として舞台に立つこと。大勢の人に自分たちの歌を届けたいと願った。


そう、奇しくも母親と同じ夢を持っていたのである。





「オレもリボーンみたいに綺麗に声変わり出来るかな…」

「お前のその面じゃ声変わり自体無理だな」

「何それ。女顔だから声変わりしないって言いたいわけ?」


誰に教わったわけでもない。
それ以外には何も知らないくらいに、彼らにとって歌うことは生きることであった。

二人で舞台に立つ。
歌手として有名になれば、自分たちの出生の秘密も何か分かるかも知れない。そんな思いも、心の片隅には確かに存在していた。


詳しい関係は分からぬまま兄弟として育った二人。
血の繋がりはあるのか、否か。父親は誰なのか。自分たちは何のために生まれてきたのか。

有名になれば、何かしらの謎が解けると、漠然と信じていたのである。



「可愛いって意味だぞ」

「…嘘ばっか」

「嘘じゃねえよ。それとも今から確かめさせてやろうか?」



そんな二人が育んだ秘密の恋。

それをいったい誰に咎めることが出来ようか。
喩え道をそれた邪恋であろうと、誰に摘み取ることが出来たであろうか。



言わばそれは運命、否、宿命の様なものなのだから。






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