REBORN!

□好きな人の好きな人
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『リボーン君てさ、彼女いるのかな、』



『んーどうだろう。最近噂聞かないよね』








たまたま通り掛かった教室で、もう何度目になるかも分からない会話を聞いた。俺に彼女がいようがいまいが、それがどんな奴だろうがお前達には関係あるまい。
以前なら何とも思わず軽く聞き流していたものが、何故か最近無性にイライラさせられる。

だから女は欝陶しいのだ。




正解だ。俺に彼女はいない。


だが付き合ってる奴はいる。



周りの奴らが、其奴が俺を好きらしいとからかってきた時は、正直言うと面白い暇潰しになるぐらいにしか思っていなかった。
自分のルックスが周りに及ぼす効果は十分解っていたし、野郎に告られた経験もなかったわけではない。

しかし、いざ呼び出されてみて。しどろもどろ話す真っ赤な顔を見せられて。
どう弄ろうかと考えている間にもみるみる其奴に対する意識が変わっていく自分がいた。
不覚ながら、それからというもの俺の頭の中にはあの光景がずっと頭から離れないでいる。


『………好き…です、』


噂には聞いていたが、ふわふわした女みたいな容姿で、頼りなさげな印象の男だった。


『いいぜ。付き合ってやるよ』


あの時に見せた文字通り花が咲いたような笑顔は、見事俺の意識をかっ攫っていったっけ。



斯くして俺リボーンと奴、沢田綱吉は恋人同士となったわけだ。











さて。


付き合いというものは一個人対それであり、それぞれ違うスタイルを持っていて当然だろう。そもそも恋愛に『普通』という単語を持ち出すこと自体が愚かしいことかもしれない。
しかしながら、今までの恋愛経験に基づく過去の事例を当てはめることくらいは誰でもするだろう。

例えば『好き同士だから付き合う』『恋人になれば独占できる』それらは一般的に正当な因果関係であり、『普通』というカテゴリーに近いところにあるべきではなかろうか。


では。

俺と彼奴の関係とは、一体何なのだろう。普通。その言葉を敢えて持ち出すならば、俺たちの付き合いは普通じゃない。男と男、それを抜きにしてもだ。


「おい、一体どういうつもりだてめえ」

「…別に…何が?」

「餓鬼じゃあるまいし一々言わなきゃ待てねえのかよ」


あの告白から一ヶ月。
付き合ってみれば、頬を染めて涙を湛えたあの可愛らしい姿は嘘のように消え、一変素っ気なくなったツナはぶっちゃけ口も悪く可愛げもない奴だった。

毎日のように一緒に帰っているにも拘らず、毎回待ってろと言っておかないと平気で先に帰る。今だってツナの下駄箱を確認してから妄ダッシュで追いかけてきたのだ。


「何とか言えよ」

「……リボーン…寒い、」


ムカつくを通り越して呆れがきているのが事実。寒いと身体を縮めて歩きだした背中に舌打ちして、並ぶことさえせずに後ろから付いていく。
一緒に帰っても何を喋るでもなく、話し掛けても上の空。以前、手を繋ぐかと聞いたときは『絶対嫌だ』と叫ばれた。そのくせ周りには俺たちの関係をバラすなと口酸っぱく言いやがる。
いよいよワケわかんねえ。

確かに最初は面白半分に考えていたが、いざ告白に了承した時にはそれなりの覚悟を伴ったのだ。時々見かける笑顔をみれば心臓は素直に教えてくれる。しかし、その微笑みが俺に向いたことはないのも事実だった。
『好きです』と叫んだ声は記憶に新しいのに、それさえ何かの間違いだったのかと思う始末で。

だからまだキスはしていない。
いまいち踏み込めないでいる。


「寒いならさっさと歩くぞ」

「……」


このままでは埒が開かないと、ツナの小っさい背中を小走りで追いかけた。
それなのに何故かツナの歩くペースが落ちていく。そうなればあとは浮かない顔で後ろから付いてくるだけだ。

どこかに寄り道する雰囲気でもなく、家に寄るでも遠回りするでもなく、門の前に着けばじゃあなと別れて終わり。彼奴もすぐ家に入ってしまい、俺は来た道を引き返して一足遅く帰宅するだけだ。


…もはや友達レベルじゃねえか?
いや、それ以下だ。


以前は当たり前だった夜遊びにも興味が失せてしまった。
いけすかない態度に苛ついている筈なのに、独りきりの部屋で思い浮かぶのは彼奴のことばかりで。
いつの間にか振り回されている状況に苛つき、真に不本意ながら不安なんてものまで感じている。


二人で歩く間も無言だった筈なのに、独りきりになった帰路はやはりもの寂しく。日々通っていてもよそよそしいままの沢田家に何故か後ろ髪を引かれた。

彼奴は今頃何をしているだろう。
少しくらいは自分のことも考えてくれているだろうか。
恋愛に於いて相手を翻弄するのは常に自分のほうだったのに、何故こんなにも。こんなにも、気持ちがぐらぐらしているのか。






面倒なことは後回しにするか。




ふと思いがけなく楽観的な考えが湧いた。俺らしくもなく。考え過ぎていないだろうか、と。


「クソッ!何なんだよ、」


好きか嫌いかと聞かれたら多分好きだ。だから彼奴に別れたいと言われても俺は断るのだと思う。
義理立てる程付き合いは長くなく、遊びだとは思っていない。じゃあなんで一緒にいるのかと問うと、そういう答えしかあり得なかった。


数分前に上の空で歩いた帰路。引き返すと何故か足取りは軽い。
明日まで会えない筈だった彼奴に、今から会いに行こうと考えただけで心臓までもが早足になった。

これではまるで自分の片想いだ。好きといって好きにさせておいて、無かったことにしたがる卑怯者に、片想いをしているようだ。






2度ほど渋りやっと押したチャイム。そんな大きな音が出るなんて聞いてねえぞポンコツ。


「……上がらせろ」


カチャリと控えめに開いたドアの隙間から、正に意図した人物が現れる。
先程別れたばかりなのに『よう』などとわざとらしい挨拶が口を吐いた。
目を真ん丸くして驚いたままのツナに有無を言わさず詰め寄る。


引く気はない。真意を問う迄、


絶対に。








「……帰ってよ…」









好きの意味が解らなくなった。














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