REBORN!

□沢田さんちの家庭の事情
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俺は昔から動物にこれといって興味がなく、猫だとか犬だとか別段嫌いでなければ好きでもなかった。


「…おい。コイツらは普段からこんななのか」


それを知ってか知らずか、アホな上司が最近『ウチのコ自慢』をしてくるのだ。それはもう鬱陶しいくらいに。
ペットショップで一目惚れしたとかで、暇さえあれば写メやら動画やらを見せびらかしてくる親馬鹿ぶり。

正直、迷惑以外の何物でもなかった。



「そうなのよ〜、とっても仲良しでしょう?」

「おいおいそんな所にいないでもっと近くで見てみろって!」


毎日毎日お宅訪問に誘われ、最初は断っていたものの段々面倒になっていた。今日だって、まあ一度見に行けば気が済むだろうというのが本音で渋々足を運んだワケだ…。


玄関を開けると、まず茶色のフワフワのが出てきた。何がそんなに嬉しいのか千切れんばかりに尻尾を振ってピョンピョン跳ねて飛び掛かってきた時は、ついついうっかり蹴り飛ばしそうになったが。

あらかじめ嫌というほど写メなどで見せられていたその犬。ちびのくせに“綱吉”と名前は意外にイカツイ。
その綱吉、愛称ツナの余りのテンションに閉口していると、どこからかワンと一つ鳴く声がして部屋の奥から目付きの悪い真っ黒いのが出てきた。アレも知ってる。リボーンだ。
するとそれまでピョンピョン付き纏っていたツナがピクリと止まって、クンクンと鼻を鳴らしながらリボーンに擦り寄っていくではないか。


そして、忘れようにも忘れられない悪夢は始まったのだった。


二匹の子犬は、次に互いの鼻先を寄せてゆっくりと舌を絡ませ出した。それはもう仲良しの域を遥かに超越した濃厚さで、家光の言うような“子犬の戯れ合い”では決してなかった。
あんなにワサワサ振っていたツナの尻尾がうねるように持ち上がり、やがてお座りをする頃にはいっそ腰砕けになっているようにさえ見えた。

確か“ツナ”と“リボーン”は番いだと言っていなかったか。



「…おい。お前アイツらを…」

「ああ。雄同士の番いなんだ」

「……」


それからというもの、茶を頂く最中も雑談の最中も、見ているこっちが恥ずかしいくらいにぴったり寄り添って口元を頻りに舐め合うのを散々見せ付けられる羽目となった。


「早く赤ちゃんが見たいわね、アナタ」


いや、赤ん坊はいくら待っても無理だと思うぜ奥さん。


「奈々は気早だな、ツナもリボーンもまだ子犬じゃないか」


馬鹿だ。馬鹿過ぎるぞ家光。
毛足の長い尻尾は触ると気持ちよさそうだと思うには思うが、なんせベタベタイチャイチャ隙がない。
一度、誘うように揺らめく先端に手を伸ばしてみたが、あの目付きの悪いのに噛み付かれそうになって諦めた。


「こらリボーンちゃんたら!ごめんなさいね、ラルちゃん」



障らぬ神に祟りなし…か。

しかし人間というのはよくできたもので、このアブノーマルな光景にも次第に慣れが生じつつあった。
こうして薄目で見ていれば単に仲の良い二匹に見えなくもない…と思い始めたそんな時。俺は今までのイチャ付きが単なるお遊びだったのだと気付かされることとなった。

犬は挨拶代わりに尻を嗅ぎ合うというのは知っていたが、やはりここの家の犬たちはかなり毛色が違っていたらしい。


「…何なんだ…。」


コロコロ戯れ合っていた二匹は不意に部屋の片隅に移動すると、何やらソワソワと互いの匂いを嗅ぎ出した。
するとリボーンがツナの腹に顔を突っ込んだではないか。不審に思い観察を続けると、直ぐにツナの腰がゆらゆらと揺れだした。

何をしてるんだコイツら。

ツナの腹の下にチラリと覗く舌と不自然な腰の運動で何となく察しが付くものの、正直死んでも確信したくはない。
時折ツナが嫌がるように腰を引くのを追いかけるように攻め立てるリボーン。

唖然としながらも目を離せずにいると、リボーンがツナを見つめたまま不意に床を舐めた。…のを決して見てはいないと言ったら白々しいだろうか。


「帰る」


ちょっと見せて貰ってさっさと帰るつもりが、とんでもないものを見せられてしまった。
今さら来たことを悔やんでも仕方のないことだが。

無駄に疲れて飛び掛けた思考を戻すと、今度はツナがリボーンの腹の下に顔を突っ込んでいるのを見る羽目になった。





確かに犬…だよな…?






こうなったら一刻も早く帰宅したかったのだが、家光と奈々の有無を言わさぬ引き止めに遭い、結局夕飯をご馳走になってしまった。

幸い、食べている間はツナもリボーンもどこか別の部屋にいたらしい。御手洗いを借りた際に隣の部屋でハッハッと必死に蠢く獣を見たような気がするが、あれは多分気のせいだ。



そうに違いない。













fin...


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