REBORN!

□一撃必殺 temptation
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一、『機嫌が悪い時の誘い方』



分厚く巨大な執務机に顎を乗せて、綱吉はなにやら気難しい顔でソファに腰掛けている恋人を観察していた。
机の半分を陣取っていた書類は先ほど処理済みとして運ばれて行ったところだ。

リボーンの手元の愛銃は目にも止まらぬ速さで分解と構築を繰り返している。見下ろすお馴染みの無表情は何時にも増して冷たく鋭い。
これはあれだ、無暗に話しかけようものなら漏れなく即死。そんなオーラだ。


一方彼の相棒は、物音など気にせず腹の上で悠々と眠っていた。
そこだけ見れば和むのだが、少し顔を上げれば地獄の番人の様な邪悪な空気を纏ったその人がいる。こうしてガン見していられるのも時間の問題だろう。

というか、怒っている時でさえ抜群にカッコいいとか不公平だと思う。
これで、例えば腹踊りとか鼻マッチとか髭眼鏡とかをしていたとしても妙に腑に落ちてしまうのだろう。

よし、今年の忘年会の余興は決まった!と、大変気早ながら綱吉は頷いた。



「…死ぬか?」


睨んだ目も向けずに無感情に呟いたそれは、ともすれば独り言にさえ聞こえる。これは思ったよりも重症かもしれない。

さて。いったい自分は何を仕出かしてしまったのだろうと、ここで漸く原因の追究に乗り出した。
昨晩は普通だった…というよりリボーンの良いようにされて寧ろ上機嫌だった筈だ。

それが今朝になったらどうだ?
朝起きたらリボーンの姿はなく、早朝からの仕事があったのかと首を捻れば執務室でちゃっかりエスプエッソを嗜んでいた。


しかし話は寧ろこれからだ。


まず朝ご飯。いつもなら一緒に起きた朝は連れ立って食道に行って、オレのジャム付きスコーンや蜂蜜掛けパンケーキを馬鹿にしながらもなんだかんだ仲良く食べている。
それなのに、今日はオレが起きるのを待たずに済ませていたのだ。

次に申し送り。朝食とコーヒーを済ませたリボーンは恒例のそれをすっぽかして早々仕事に出かけて行った。
いったいどれだけハイスピードで片付けたのかは知らないが、そのおかげで早々帰宅したリボーンはここで寛いでいるわけだ。

極めつけはこの無言の訴え。そんなに機嫌が悪いなら外に出て何かしてくればいいものを、わざわざここで何時間も銃を弄くり回していったい何が言いたいのか。


何を以てご機嫌斜めなのかは知らないが、そんな訳でオレは朝から冷や汗の大洪水だった。



「ちょっ…こわいこわい!」


完成されていなかった筈の銃がオレに向く間の瞬時の組み立て。早送り過ぎて恐ろしかった。
ガチャッと冷たく掲げられた銃口は、間違いなくオレの眉間に向いている。

あまりの展開に少しだけ(本当に少し)おどけてみるが、意外にもそれ以上の反応は無かった。
本当に何なんだこいつは。


「リボーンさ、何か言いたいことでもあるわけ?」


観察を始めてから問いかけるまでの時間、28分と少し。


「ない」

「嘘。そんなあからさまな態度とっておいてそんなわけない」


ハリネズミみたいにツンケンした態度は何処か拗ねているようにも感じられるが、本当に何の心当たりもないし、つまりは謝り様もない。

ここまで臍を曲げている位だ、恐らく余程の理由があるのだろう。
完全にお手上げ状態のオレは、リボーンに近づき逆に拗ねた振りをして下手に出ることにした。


「オレに怒ってるんでしょ?何かしちゃったんだよね、でも言ってくれなきゃ分かんないよ、」


ソファ越しに抱きついてみる。項にキスをして、肩にそっと額を預けて。
思惑通り、別に…と呟いた声色からは心の揺れが伝わった。
腕ごと抱きしめたから手元を動かし辛くなったようだが、意地になったリボーンは手を止めず更に集中しようとする。


「…もしかしてオレ…嫌われちゃったの、?」


手元に無理矢理向けている意識を根こそぎ奪い返したくて、泣いたように囁いた。
自分で言ったあまりの台詞についその気になって、実は本当に泣いてしまいそうになったのは内緒だ。

するとほんの僅か反応があって、肩越しにそれが分かってしまった。


「…別に、」


さっきと同じ台詞がさっきより穏やかに返ってきた。
それに安心して頭を傾けると、目の前にあった少しだけ色付いた頬に唇を寄せてみる。
こうして抱きしめているだけで温かいけれど、ソファという隔たりがだんだん邪魔になってくる。

綱吉は絡めた腕をそのままに何の迷いもなくソファを飛び越えて、リボーンの膝の上に着地した。


それまで膝を独占していたものたちが、リボーンの手で瞬間的に退けられたのを見て嬉しくなる。
危うく銃と共に彼の相棒まで潰してしまうところだったが、賢いカメレオンは自ら譲ってくれたようだ。


「ホントに嫌いじゃない?」


視線を合わせるように向かい合ってコテンと首を傾げてみる。
おっさんが何やってんだ…とか今だけは突っ込まないでほしい。


「ああ」

「嘘だったら許さないからな、」

「嘘じゃない」


故意に怒った振りをして、本当は嬉しい胸の内を隠した。
相変わらず短い返事しか返ってこないけれど、こんなやり取りに付き合ってくれる位には落ち付いたみたいだ。



それから暫くそんな調子でゆっくりしていると、リボーンも拗ねるのに飽きたのかだんだん口数が増えていった。
こういう所が可愛いとか思う。

…絶対言えないけど。



「あーあ、このままじゃリボーンがいなくなったらオレ死んじゃうかも」


リボーンにちょっと元気がなかったりムクれていたり、それだけでオレの心中は大騒ぎだ。
現にこうやってくっつけば、離れるタイミングなんて一生訪れないくらい依存してる。


「そんときゃオレも死んでんだからすぐ会えるぞ」


そう言って短いキスを何度も繰り返した。リボーンはすっかりいつもの調子を取り戻したようで、腰のあたりで大きな掌が不穏な動きを見せていた。


「あの世で会ったら一緒に探検しようね」

「子どもか。ま、仕方ねえから付き合ってやるよ。だがその前に…」


シャツの裾を探りあてた掌が素肌に触れて背骨を辿る。
漸く戻ったご機嫌だ、今さら拒否するなんて無粋なマネをする気はなかった。


何より、まんまと雰囲気に煽られたのは綱吉も同じだったのだから。





















(ねえ、結局何だったの?)

(お前が…)

(やっぱりオレ何かしちゃったんだ)

(ああ。とても重大な過失をな)

(え、マジ?何?何しちゃったのオレ、)


(何時間待っても俺の名前を呼ばなかったんだ…)






リボーンは興味本位で買った恋愛雑誌の後半を広げて見せた。


☆ラブラブ度占い☆
恋人の寝言に注意してみよう!
好きな子の名前がポロリ(o^o^o)
アナタの名前を呼んだら両想い間違いなしっ!!






数分後、今度は必死にツナのご機嫌を取るリボーンの姿があったという。







fin...

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