REBORN!

□戯れに本音を隠して
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望んではいけない恋に、捧げられるものは私の、心。命。未来。

これ以上何が必要?
何を手放せばいい?

次は何を諦めれば、いいですか?






貴方に抱かれる夜はとても幸せで、幸せで、幸せで、仕方なくて、耐えられない。
私の髪を優しく撫でる掌が、旋律を奏でるように辿る指先が、汗で湿った腕が、肩が、胸が、切ないほどに愛しくて。
あと一刻もすれば、貴方は貴方の持ち主の元へ帰る。私のものであるこの奇跡の時間は、ほんの一瞬の幻で。


───イカナイデ
どんなに強く手を握っても、


───ココニ居テ
どんなに強く想っても、


───オ願イ…オ願イ…

届かない。



こんなに辛いのに、心は泣いているのに、貴方の傍ではけして泣けない。
解ってほしいのに貴方を前にすると、笑顔しか出てこない。
一人になればあんなに泣いて、貴方を罵りさえするのに、どうして…。どうして、肝心な時に泣けないの?


「よそ見すんな」

「…っふ、……んぁ……っ…」


深入りしてはいけない、そう思うのに止まらない。傷付くことを解っているのに、止められない。
昨日より好きになった。さっきより好きになった。今もこんなに魅かれて、苦しくて、でも、止められない。

必死に見つめた闇色の目に、醜い私の眼が映る。これ以上見ていられなくて、でもその目を刳り抜いてしまうのは勿体なくて、仕方がなく目を閉じた。

ほら、やっぱり貴方は機嫌を損ねてしまう。
でも、許して欲しいの。
我儘なんて言わないから、これくらいは大目に見て欲しいの。



「もう一回、いいか?」

「……ん、」



好き。
言えたらどんなにいいだろう。
戯れのそれではなく、本当の“好き”を伝えられたら、どんなに救われるだろう。

嗚呼、貴方の傍にいるあの男の心臓を、一突きに貫いてしまいたい。
貴方の心を、身体を、我が物顔で独占する、あの男を。ドン・ボンゴレ、あんな奴、滅びればいいのに。

焼け付く程の嫉妬で、身体中に火を纏う。貴方がいない時間の私は醜い。けれども、貴方の傍にいる私は、もっともっと薄汚い。
どろどろと流れるそれを止めてほしい。
醜くなんて、なりたいわけじゃないから本当は。貴方さえいれば、私は天使にも、悪魔にだってなれる。

彼より先に出会えたらよかった。
いったい誰を、何を呪えば救われるだろう。


でも本音は、言えない。
彼を失って貴方が傷付く姿を、見たいわけじゃないから。



「愛してるぞ」


嘘言わないで。もうこれ以上そんな風に、惑わさないで。心を、縛らないで。
何でそう言ってやれないのだろう。

愛してると言われると嬉しくて、狂うくらいに心が躍って、苦しい。
好きと言われると切なくて、握り潰されるくらいに心がトキメいて、苦しい。


「…お前は?」


貴方は、貴方の持ち主に、どうやって愛を囁くの?
彼は私の知らない貴方を、知っている。じゃあ私の知っている貴方は、その何割くらいなのだろう。私の見たことのない表情を見せて、私の知らない愛し方で、私の知り得ない時を過ごしている、貴方と彼。


「…愛してる」


嗚呼、本当の“愛してる”を言ってしまったら、貴方はどうするの?
私の本当の気持ちを知ったら、貴方は明日もここへ来てくれる?
苦しい。
好き。
欲しい、貴方が。


「心が籠ってねえな」

「…ふふっ…籠めてないから」


酷い人ね、貴方って。
それでも泣けなくて、まるで軽口のように愛を囁く馬鹿な私。貴方の負担にはなりたくない、イイコチャン。


貴方と出会って、素敵な思い出が出来た。
涙は、共に過ごした夜よりも遥かに多いけれど、私は確かに幸せだった。
あの夜も、あの夜も、あの夜も、そして今夜も。貴方といられて、私は最高に幸せでした。


「あんま時間ねえから急ぐ。悪いな」

「…うっ、……くぅ…う、…」


ねえ、リボーン、
好きよ?
大好きよ、とても。とても好き。


「…声、聞かせろ」


だから許して、もう。
貴方という檻から、私を、





出して、





















その瞳から痛いほど伝わる想い。

応えてやることが出来ないのをお前は知っているから、俺も気が付かない振りをする他ない。

お前には決して解るまい。
愛するものに愛される苦しみを。
お前には解るまい、永遠に。


「リボーン、…愛してる」


強く抱き締めた両手から、想いは伝わりはしないだろうか。お前は可愛い。お前は美しい。お前は、こんなにも愛されている。そんなことが。


「心が籠ってねえな」


痛いほど切り込む想いを、抱き締めるから。返すことが出来ない分、温めるから、泣くな。
俺の前ではお前はいつも笑顔で、でも心ではいつも泣いている。
そんなお前の全ては、抱き締めてやれないから。



「…ボンゴレの命で、暫くジャッポーネへ渡る」



抱き締めた肩がピクリと揺れる。
お前は本当にボンゴレが嫌いなんだな。いや、ボンゴレのボスがか。
お前が『捨てろ』と一言言いさえすれば、俺はそれに抗うことはしないだろうに。ボンゴレなんて捨てて、一緒に居ろと言えば、それだけでいいのに。


「…そう。また来てね、死ななかったらさ」


嗚呼、泣き声が煩い。お前の心が悲鳴を上げて泣く声が、耳を、脳を、心を揺する。
好きだと、愛していると、幾度囁いたことだろう。その度に弾かれて、お前の心臓まで届かない。そんな不毛な愛を、もう何度囁いてきたのだろう。


「じゃあもうこれっきりかもな」

「…っ、!」


意地が悪いと罵ればいい。
殴りかかってくればいい。そんなに愛しているのなら、同じくらいに憎めばいいじゃないか。
そうすればお前も楽になれるだろうに。

ツナ、お前と同じ様に、俺もボンゴレが嫌いだ。お前は信じちゃくれないだろうがな。


「だから今のうち甘えておけよ」


お前の頬に涙はない。
けれどもお前は確かに泣いている。枯れない涙を流し続けて、その心臓に深い深い傷を負って、確かに泣いている。


「ねえ、…リボーン、俺たち、」


謝ることさえも許されない。謝罪で報われようとすることと、それさえ出来ずに朽ちていくことと。つまりどの道俺は卑怯者だ。
愛していると言うならばその手を取ればいいだけのこと。
俺と生きてくれと、そう言えばいいだけの。


「待て」

「…え?」

「もう少しだけ、待ってくれないか?」


今、この瞬間、俺は世界中の誰よりも情けなく、そして卑怯だ。


「………」

「解ってるから、もう少しだけ、」



こうして縛りつけて、傷付けておいて、離れていくお前を引き止めることを止められない。
愛することを諦めてやれない。
その涙はまだ拭えない。

そう、まだ、今は…。





























解った。貴方、私を殺すつもりなのね。

そうやって宙ぶらりんにして、微温湯のような曖昧な言葉で、愛で、繋ぎとめて、溺れるのを待っているのでしょう?
それでも好き。
そう言ってほしいんでしょう?
大丈夫、それは本音だから、貴方の望み通りの言葉を返してあげられる。良かった、幸せ。


「待つ?何のこと?」

待たなくたって私は貴方から逃れることはできないのでしょう。逃げ出したって、どんなに否定したって、全て無駄。
誰を愛したって、誰に抱かれたって貴方と重なるのだろう。知らない瞳の向こう側に貴方を見て、また泣いて。


「…ツナ、」


嗚呼、平穏なんて要らない。
自分も硝煙と血の世界に生まれたかった。ボンゴレの、彼の様に。


「リボーン、行ってらっしゃい」



大丈夫、待っているから。
そういって口付けた。
見つめるお前が、オレよりももっと泣きそうに見えたから。
帰ってきて、オレの元に。
待っててあげる。だから彼よりも先に、オレに元気な顔を見せて。


「ああ、行ってくる」



いつか、言えるだろうか。
“愛してる”を許される時が訪れるだろうか。

帰ってきて、私の元へ。
一人きりで育ててきた想いを、殺してしまうその前に。





























(ただいま、ツナ)

(…どちらさまですか?)

(リボーンだ。現在無職で、恋人も同時に募集中だぞ)

(……馬鹿じゃないの)







『愛してる』と、言わせて。









Fin...

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