REBORN!

□時空旅行U
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もうあと半刻程で日付が変わる頃、奈々は晩酌の相手に就寝の意を伝えた。



「おやすみなさいツッ君、リボーンちゃん」

「おやすみだぞ、ママン」


「おやすみ母さん。一緒に飲めて良かったよ」



この歳で成人した息子と晩酌できるなんて素敵だわ、と何度も嬉しそうに笑う母はとても可愛らしかった。

普段は殆どアルコールを口にしない奈々だが、家光の帰宅時には『すこしだけ』と付き合っている場面を目にしたことがある。
それを思うと多少くすぐったさを感じ、綱吉も素直に笑った。


「母さん、また会おうね。愛してる…これからもよろしく」

「…ええ、また会いましょう」


綱吉の超直感に奈々も何かを悟り、成長した息子と暫しの別れを告げたのだった。




「さてと。俺にも寄越せツナ」


エスプレッソの入っていたカップはとっくに空だ。


「だ〜め。お前には早く大きくなってもらわなきゃいけないんだから。俺に追い付くまでおあずけだよ」


そう言いながら席を立ち、綱吉はキッチンに向かった。程なくしてふわり、と届いた珈琲豆の香りに、目を閉じて酔う。


「ふん、少しは上達したんだろうな。不味かったらやり直しだからな」

「ははっ、リボーンや母さんには劣るだろうけど……毎朝煎れてるからね、飲めなくはないはずだよ」


どうぞ。と置かれたカップに目をやる。立ち上る香りですでに確信していたが、パッと見た色艶でも上質なそれが伺えた。

期待を込めた目で見つめてくる綱吉を軽く無視して、一口拝借する。


「まあまあだな」

「良かった。……本当、ありがとねリボーン。ありがとう」

「誰がそこまで褒めたんだ。調子に乗んな」


「違うよ、そうじゃなくて…」



訝しむリボーンを宥めるように、綱吉は続けた。


「リボーンは今さ、俺の知り得ない所で俺のために動いてくれてる。そりゃあ契約ではあるけど、リボーンがダメな俺を信じて、守って、育ててくれてるのは事実だもん」

「…それで『ありがとう』か?勘違いすんな。俺はただ、引き受けた仕事に手を抜かないだけだ」

「うん、分かってるよ。それでも伝えたいんだ。10年前のリボーンにも10年後のリボーンにも感謝してる」

「ふん」


未来には幾つかの可能性がある。ボスである俺は今リボーンと共に生きているけれど、目の前のリボーンの未来にも必ずしも俺がいる確証はないのだ。


「でもね、感謝してるのと愛してるのは別だよね」

「そうだな」

「俺は10年前も今もずっとリボーンを愛してるけど、それは君であって……君ではない」


「ああ。俺もこの先10年ツナを愛したとしても、今はお前なんか微塵も愛しちゃいねえぞ」



そう、リボーンはきっぱりと言い切った。


「……なんか傷付いた」

「ふん、お互い様だぞ。先に言ったのはお前だろ」


愛しているけど、愛していない。お前であって、そうではない。俺達は同じ想いを持っているからこそ、相手を見誤ってはいけないのだ。
この出会いは、決して無駄にはならない。


親と子程の歳の差がある二人は、それぞれの『相手』を想って笑い合った。








「ねえ?リボーン、一つお願いがあるんだけど…」


元の自室に帰り、10年前に自分が使っていたベッドに横たわったまま、ハンモックの上のリボーンに問い掛ける。


「事と次第によるな。…何だ」

「そのハンモック使うのさ、……今夜限りにして?」

「は?」


意味の分からない言葉に、うっかり間の抜けた声が漏れた。


「だってさ、一緒に寝たかったもん」

「……仮にそうだとしても、お前がそれカミングアウトしたら台無しなんじゃねえのか?」


これは今この時代の俺とツナの問題なのではなかろうか?


「あ、違う違う…ってそうじゃなくてさ。リボーンに譲歩してもらえないかなって話」

「譲歩だと?」

「うん。昔の俺はさ、リボーンも知ってる通り鈍臭いでしょ?自分の気持ちを認めるのさえ時間がかかったんだよ」

「だからゆっくり時間を掛けろって言いたいわけか?」


まあ一筋縄じゃいかねえのは端から承知だがな。


「そうだね……それもそうなんだけど。違うんだ」

「お願いは一つだっただろーが」

「あはは、じゃあ二つで」


綱吉は調子よく笑う。


「で?」

「譲歩してって言うのは、俺が逃げられないくらい攻め立ててって意味なんだ」

「、!……おいおい何か卑猥だぞ」

「////誤解すんなよ、手を出せって意味深じゃなくて、……口説いて欲しいんだ」


素直に好きと認められない俺を、助けて欲しいんだよ。


「都合良いこと言ってごめん。でも、絶対に受け入れるから。お願いします、俺に、リボーンが好きだと言わせてあげて」









「そんなこと言われなくても分かっている。俺は百発百中のスナイパーだぞ」


「うん、…ありがとう」












最後と決めたハンモックで目覚めると、綱吉は先に目覚めていた。ベッドに腰掛けたその膝に降りる。


「さよなら、リボーン」


何かを察知して、綱吉はそう呟いた。


「別れの挨拶は場違いだぞ、綱吉」

「そうだねじゃあ……またね?」

「…さっきとどう変わったんだよ。まあいい、俺からも一つ、お願いがあるぞ」

「え、…何?」



どこからか現われた煙に巻かれだす。いよいよその時が近付き、リボーンは綱吉の耳元に唇を寄せ、何やら呟いた。

最後に見た綱吉の顔は、真っ赤になりながら口をパクパクした、何とも情けない顔だった。












「「ただいまリボーン」」


「「お帰りツナ(綱吉)」」






それぞれの、いるべき場所へ。









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