REBORN!
□会いたい気持ち
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「なんかさ…昔を思い出すよね」
かつて母国日本で使っていた安物のベッドは、私邸にあるものより遥かに小さく質素なものだった。それでも、自分にとっては特別な思い入れがある。
「そうだな」
あんなに寒かった部屋は今では汗ばむくらいで。それでも俺たちは、こうして隙間なんてないくらいに肌を寄せ合っている。
あの大きなベッドに一人で寝るよりも、どんなに狭いベッドでもいい、こうして寄り添って、貴方の隣で眠りたい。
「部屋のベッド変える?」
「…止めろ。狭いのは大問題だ」
「ふふっ、確かにね。…でもさ、この距離も捨てがたいじゃない?」
イタリアに渡るまでは、丁度こんなベッドで身を寄せ合って寝ていた。シングルベッドに男二人ではとても狭く、あり得ないほど軋んだ音を出していたっけ。…さっきみたいに……。
「それも一理あるが、これじゃ十分できねえだろ」
「いやいや;…あれで不十分て言われたら俺死ぬし…」
漸く身体の火照りも落ち着きを見せて、あれだけ流した汗が逆に寒気を呼んでくる。
「死なねえ程度でしてやってんだろ」
「……俺たまに実は愛されてないんじゃないかと思うことあるんだよね…」
いや、正に今がそれなんだけどね。ついでに言うとリボーンが人間かどうかも疑わしいよ、まったく。
「なんだ、足んねえのか?」
「…都合のいい読心術だな!」
いらないものは読み取るくせに、それ以外は完全無視かよ。
「だってー。自分のために身に付けた術なんだもーん」
「キャラ変えんな!可愛くないわっ!」
赤ん坊の時ならまだしも、その図体でやられても全然!全然かわい……いんだけどさ(泣)
「ツナ、寒いぞ。可愛い俺を温めるためにもっと近寄れ」
傲慢な物言いに返す言葉もないが、実は俺自身も少し肌寒さを感じていて、不本意ながら素直にくっつくことにした。
もっとも、元よりリボーンに抱き寄せられている時点でたいして近寄る余地もないわけだが。
「…リボーンさ、ホント大きくなったよね」
日本にいたころはそれでももうちょっと余裕があった気がする。
というのも、羨ましくもすくすく身長が伸び続けているリボーン先生の成長の賜物なわけだ。
「そういうお前は大して変わらないな」
うっさい!と途端に不機嫌になる綱吉が、むっとして睨み付けてくるのを宥めるようにおでこ、瞼、鼻先、頬と、優しくキスが降ってくる。
それだけで直ぐにほだされて、上手く扱われているのを綱吉自身自覚しているが、如何せんキスが優しく甘すぎてどうにもならない。
「俺は、…ありのままのツナがいい。何度もそう言ってんだろーが」
降り続くキスの雨の合間に囁かれたその一言で、もういいやと諦めることにした。リボーンにはどうあっても勝てやしない。
こんなにどうしようもないくらい夢中にさせられるのだって、相手がこいつじゃ仕方がないのだと。
「んっ…りぼ、」
肌に触れる唇の感触が気持ち良くて、無性に甘えたい気持ちになる。
空気が何とも甘ったるいせいで、大の大人が年端もいかない少年に擦り寄り、果てはこうして泣きそうになっているなんて。
「リボーン…くちに、」
綱吉の言葉を聞いてリボーンは一度顔を上げ、その表情に苦笑した。
ねだるように眉頭を寄せ、大きな瞳に涙を滲ませ、そんなことを言う唇の願いを叶えてやる。
触れては離れてを何度も繰り返し、満たされていく心は静かに凪ぐ。
なぜこいつは、自分ばかりが好きなつもりでいるのだろう、とリボーンは常日頃思っていた。どうしようもないくらい溺れてしまっているのは、むしろこちらの方なのに。
こんなに愛しても分からない綱吉に、少しだけ不安になる。
俺の愛し方ではなく……綱吉のオツムにだ。
そんな綱吉はというと、たかがライトキスにすっかり当てられて、ボーッとこちらを見つめていた。
その惚けた表情が微笑ましくて、一度小さく吹き出したリボーンは、再度目の前の唇を塞いだ。
「ツナ…ツナ、…会いたかった。寂しかった…」
「…ぇ、」
「お前がいねえと俺はだめになんだよ……頼むから、俺の傍にいてくれ、」
読心術が使えないお前のために、今まさに思う、俺の本心をやるよ。
「───っ////!!」
遥々会いに来てくれた礼だ。お前は物覚えが悪いからな、しっかり胸に刻んで覚えておけよ。
……って。おいおいお前、また泣くのかよ。
「泣き虫だな」
「…っだって!…そんなの反則だよっ…」
一向に泣き止まない綱吉を胸に押し付け、わずかに訪れた眠気に身を任せる。
それでもおそらく、泣き疲れた綱吉が先に落ちることになるだろう。
おとなしく胸に納まる華奢な身体を優しく包み、目を閉じる。その寝息が子守唄に変わるまで…あと少し。
fin...
→あとがき