REBORN!

□君のとなり僕のとなり
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5限の後、次の授業は数学で移動教室でもないのにあいつはこない。クラス恒例の行事となったリボーン訪問を楽しみにしている女の子たちは、頻りにこちらをちらちら伺っている。

たぶん今日はもう来ないよ。
誰にでもなく大声で宣言してしまえたら、少しは憂さも晴れるのだろうか。









嫌な場面をリボーンに見られて、授業が始まった後も動揺が治まらないでいる。
授業なんて元より耳に入ってこないけれど、だからと言って寝てしまうこともできずに教師が何か喋っているのをボーッと見つめている。頭の中は始終リボーンのことでいっぱいだった。


「お、沢田が授業聞いてるなんて珍しいな。よし、こっちきて次の問題解いてみろ」


数学担当の担任が何やらこちらを見ているなと思っていたら、今度はクラス中の目が一斉に俺を振り返るではないか。
深く考え事をしていていた俺も、さすがにこの事態を受けて慌てて意識を取り戻す。


「…すみませんでした。ちゃんと聞きます」


全く話を聞いていなかったのがバレて怒られたに違いないと、おざなりにも謝っておいた。クラスメイトに笑われるのなんて今さらだし、担任には悪いが何しろ今はそれどころではないのだ。

──何て説明しよう…

ありのままを説明すれば良いのか。いや、正直に話したとて俺がリボーンに嘘を吐いたことには変わりない。

この授業が終わったら帰宅部の俺は家に帰るだけ。あいつはいつものように迎えに来るのだろうか。
というのも、居残りやら補習やらで遅くなってもリボーンは俺を待っていてくれて、俺たちは必ず一緒に帰宅しているのだ。
昼休みにあんなことがなければ今日だって二人で帰って、どちらかの家でゲームでもしていただろう。

モヤモヤした気持ちが治まらないままHRは進み、担任の連絡事項が始まれば生徒たちはざわざわと帰りの準備をしだす。女子生徒がそわそわしているのは、HRが済んだと同時にズカズカ入ってくるあいつのせいだ。
今日も今日とてクラスの皆が頻りに教室後方の入り口を伺っている。

起立の号令が掛かると、ぞんざいに引かれた椅子が鳴る。妙に緊張したまま挨拶をして、敢えて入り口を見ないようにしながら鞄を肩に掛けた。『ツナ』と呼ぶ声はまだ聞こえない。


「ねえダメツナぁ、リボーンくんは?」

「……さあ」


いつもなら号令と共に扉が開いて、担任が出ていくのも待たずに迎えにくる姿が今日は見えない。
それをまだかまだかと待ちわびていた女子からすれば、疑問と怒りの矛先は俺なのだろう。俺の唯一の長所と言われるリボーンとの仲は、本人にとっては決して優しいものではない。


「さあって何よ!ほんっと役に立たない奴ね。」

「あんたが何かしたんでしょ。あーあ、ダメツナに一日の楽しみ取られた!」


一人が騒ぎ出せば他の奴らもすぐに集まる。鈍臭い俺は立ち去ることもできず、あれよあれよのうちに囲まれてしまった。


「何だ何だ〜?ダメツナ君は彼氏に振られたのかぁ?」

「ちょ、止めてよ!キモいこと言わないで。何でリボーン君がダメツナと、」


女子の総攻撃に便乗して男子までも面白がって詮索を入れ始め、窓際の特等席はあっという間にクラスメイトの好奇の目に囲まれた。
いつもなら先頭に立って責めてきそうな事の発端となったあの女の子は、ちょっと離れた所から複雑な顔でこちらを見ている。


「でもよ、コイツ女みたいにひょろっこいからさ」

「ああ確かに。俺田中は無理でもダメツナなら何とかなるかも」

「アハハッ!マジかよお前〜」


女子には責められ、男子には見定めるような目で舐め回され、それでも言い返すこともできないでいる。
非難の声と馬鹿にしたような笑い声の響く教室で、どうすることもできずに小さくなるばかりだった。


「いい加減にしてよホモ!それ以上リボーン君を侮辱しないで」


ばか騒ぎの中、一人の女の子が憤慨して叫び出す。どうしてこんな目に遭っているのだろう、頭の片隅にリボーンの顔が浮かんだ。


「じゃあ何でダメツナなんかがリボーンと一緒にいんだよ。それしか考えらんねーじゃん」


男子側の言い分は、もはや面白がっていると言うよりも断言に近づいている。
他人からどう見られようが気にしない、俺はそんな美学を掲げられるほど強い人間ではなく、クラスメイトの一言一言に一々傷付いていった。

友達。それが成り立たないほど俺たちは不釣り合いなのか。


「あのリボーンをどうやって落としたんだよ、ダメツナ」


クラスのリーダー格の男に頭を何度かこずかれる。あまりの言われ様に、悲しみが悔しさを上回り泣いてしまいたくなった。
嘘がバレた上にあんな場面を見られて誤解を受け、休み時間も帰りも来てくれなくて落ち込んだ上のこの状況。

そんなにおかしいか。じゃあ良かったな。その不釣り合いな俺は今日、恐れ多くもリボーンを裏切って嫌われたんだよ。
ちょうど良いじゃないか。
何もかもどうでも良くなっていた俺は、とにかくこの状況から脱したくて堪らなかった。





「…リボーンはもう、」










「教えてやろうか?」


友達じゃないよ。
自分の言葉に傷付くのを覚悟した瞬間、聞き慣れた声がかぶさって聞こえた。
騒がしい教室の中でもその心地いいテノールは凛と響いて俺の元へ、そして皆の耳へ届く。


「悪い、HR延びちまった」


なんてことない様子でリボーンが近づいてくると、俺の周りに群がっていた男子も女子も蜘蛛の子を散らすようにサッと道を開けた。そしてあんなに騒いでいたのが嘘のようにしんと静まり返ってこちらを見ている。


「おい。何黙りこくってんだお前、知りたいんだろ?」


どうやってツナが俺を落としたか。
俺の前までたどり着いたリボーンは先ほど俺をこずいていた奴に向き直り、彼がしたのと同じように頭を何度かこずいて見せる。そして幼なじみの俺でも見たこともないような冷たい笑みで、ネクタイごと胸ぐらを掴んで問い掛けた。

学校一の優等生のそんな姿を間近で見ているそいつは哀れなくらいに青ざめ、遠巻きに見守る周りの奴らも驚きのあまり微動だにしない。
殺気じみた威圧感と射殺さんばかりの視線に、俺自身もゾクリと恐怖を覚えた。









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