REBORN!

□君のとなり僕のとなり
3ページ/6ページ


どうやってツナが俺を落としたか知りたいか。リボーンは確かにそう言ったけど、それって…どういう意味?








「ツナ」


普段は甘く優しいテノールはどこか低く、いつもの色も感じられない。鋭く研ぎ澄まされた視線がこちらへ向くと、それでも僅かに刺々しさが薄れたのが分かった。
恐怖から解放されてホッとした俺は、急に呼び掛けられて反応もできず近づいてくる真っ黒な目を見つめることしかできずにいる。

視界がだんだんと黒で埋まっていく中ふとリボーンの背後で、掴まれていた胸ぐらを離され冷淡な視線から解放されたそいつがへたり込むのが見えた。


「り…リボーン?」


少しも逸らされる事なく真っ直ぐ見つめる黒は異様な雰囲気を纏っていて、細められた瞳はこの胸を掻き立てる。
キラキラと冷艶に輝く双眸に吸い込まれそうな錯覚を覚えたとき、自分の間抜けな顔がそれに反射して硬直した身体を意識した。
そんな戸惑う顔が映るのを目にした瞬間、煌めいて目が離せなかった瞳は真っ黒な睫毛に隠されてしまった。そんな長い睫毛も、次第にぼやけて見えなくなる。


「‥‥‥‥‥‥?」


気が付いたら唇に温かな感触に包まれていて、静まり返った教室は困惑の騒めきでいっぱいになっていた。
ちゅっと恥ずかしい音を立てながら何度も何度も唇に柔らかい感覚が触れて、フリーズした頭が遅れてその行為を認識する。驚きのあまり反射的に口が開くと、タイミングを図ったように得体の知れない感触が口腔に割り入り、そのまま腔内を支配された。
ぬるりと動き回る何かに怯えて逃げる舌を取られて、ぐるりと舐め回されたと思ったら次の瞬間軽く噛まれ、ギクリと肩が震える。
舌を甘噛みされる妙な感覚に付いていくこともできずされるがままになり、そのまま扱かれるように舌を吸われた。

何だか身体がふわふわする。混乱の中に生じた不思議な脱力感に肌が騒めき、目尻の端からするりと涙が頬に伝った。


突然の事態を受けて膝がガクガクとわらってしまった俺はついに床にへたり込んでしまい、知らぬ間に溢れる涙を制服の袖でグシグシと拭った。
騒めくギャラリーの手前どうすることもできず、ただただ初めてのキスの余韻に呆然とするばかりだった。





「泣いてる顔がそそられんだよ、コイツは」






乱れた息を整えるべく深呼吸を繰り返す。そんな中、頭上からさも愉快だとばかりに吐かれた声が降ってきた。
潤んだ目に構わず声のした方を見上げると、ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべてリボーンがこちらを見下ろしている。

リボーンと…きすした。回らない頭をフル回転してその意味を追い掛け、呼吸が楽になるに連れて赤くなる自分を意識していく。遠退いていた意識を取り戻せば、クラスメイトの声もだんだんとはっきりしてくる。
それはたぶん女子の悲鳴だったり男子の冷やかしだったりするのだが、リボーンとのキスの衝撃に比べれば遥かにどうでもいいことだった。


「ま、笑ってても怒ってても可愛いのには変わりないがな。おいツナ、いつまでへたれてんださっさと帰んぞ」


引き上げるように腕を取られるが、腰に力が入らず床から立ち上がれない。そんな俺を見て、いい加減慣れろよとか何とかまるで意味不明な言葉を呟いたリボーンは、まるで荷物でも持ち上げるかのように軽々と俺を抱え上げてギャラリーに背を向けた。

必然的に教室内を向く格好になると、クラスメイトの様々な表情が一斉にこちらを見ているではないか。
怒りを向けている者、顔を赤らめている者、ニヤついている者、泣いている者、色々な感情に責め立てられて辟易していると、振り返ったリボーンによってぐるりと視界が半回転した。


「そういうわけだからな、今後俺の許可なしにこれを弄ったり呼び出したり、目を合わせたりした奴……覚悟しとけよ」


背後で高らかに宣言される台詞に誰一人として言い返す者はいなかった。
いやいやそういうわけってどういうわけだとか、さすがに最後のはどうなのかとか、お前今人をコレ呼ばわりしただろとか、突っ込むべき箇所は多々あるのにタイミングを逃して不覚にも流してしまった。

そして教室を出る際に再び目に入った教室の光景に、自分の高校生活はたった今終わった、そんなことを悟ったのだった。











「ちょ…ちょっと、リボーン!」


リボーンが歩く度にゆらゆらと身体が揺れて落ち着かない。取り敢えず下ろしてほしくて手足をバタつかせて意思表示をするが、体格の差は力の差。リボーンは気にしたふうもなくさらに強く拘束しただけだった。


「下ろせよ!」


あまりに強引な展開にされるがままになっていたが、やっとのことで我に返ってみると今までの困惑は怒りに変わっていった。
腹立たしさに任せて本気で暴れれば、さすがのリボーンも仕方ないとばかりに腕の拘束を解いた。


「どういうつもりだよ!何であ…あんなことするんだ、ばか!」



信じられない分からないあり得ない。
き…キスだぞ、キス!それも、一生に一度、女の子だけでなく男の自分も少なからず憧れたりするファーストなキスだ。

それをあれよあれよの内に奪われただけでなく、クラス中の目の前で公開羞恥Рの如く晒し者にされたのだ。嘘を吐いたのは俺が悪い、でもいくら何でもこれはあんまりではないか。



「そんなの、したかったからに決まってんだろ」

「は、はぁ…?」


あっけらかんと返された言葉にどうしようもなくイライラが募る。不可思議なほどの苛立ちに自分でも戸惑いながらも、毅然とした態度を取って必死に睨み付けた。

そこでようやく教室を出てからの短時間の間に、いつの間にか屋上まで連れてこられていたことに気付いた。どれだけ歩くのが早いのか。



「お前にキスしたかったからした、それだけだぞ」


なぜそんなことを聞くんだと言わんばかりにリボーンは宣う。
それがなぜこれほどまでに癪に触るのか、考える余裕などその時の俺にはなかった。











.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ