REBORN!
□酒と微熱と嘘と愛
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薄いシャツ越しに背中を撫でる掌の熱が、押し殺して隠した劣情を呼び覚ます。
見つめ合ったままどちらからともなく唇を合わせれば、琥珀色の相貌はぼやけて消えた。
降り注ぐ湯が唇の合間から入り込み、交ざり合う体液を中和しながら二人の水音も奪い去っていく。
腰、背中、首元と、何かを探すように撫でる指が、微かな摩擦で確かな熱を生んでいった。
「…っは、…ぁ…」
時折離れてはもどかしげに見上げ、そのまま口付けるの繰り返し。
積極的に誘った割りに甘えていたいらしく、受け身に徹して暗に行為の進行を委ねられる。
「何をされたいんだ?」
「…んっ…そんな…、」
「俺に何されたいんだって聞いてんだ」
しな垂れかかっていた身体を無理矢理に引き剥がして問えば、疑問に満ちた瞳で見返された。
こちらに怒りはなくむしろ楽しんでいる位なのだが、一方で高圧的に責めることを止めない。
なんでそんなこと聞くの?
とでも言いたげに泣きそうに歪む表情が、どうしようもなくゾクゾクして堪らない。
「ほら、言ってみろよ」
薄笑いのその奥に、燃え盛る炎を隠して。
足に擦り付けられたままのツナ自身をそろりと指先でなぞれば、とたん催促するように腰が揺れる。
そうやって自ら追い詰められていく様を見るのは、なかなか気分が良いものだ。
「…シたぃ、…てい…たのにっ」
早く触って…。
縋り付くように見上げる瞳に、汚濁した支配欲が癒されていく。
言わせた言葉も聞き終わらぬ内に、身を任されていた裸体を乱暴に押し倒し、吐息も喘ぎも総て奪うつもりで唇を塞いだ。
そんな激しいキスの間、もう前戯も許せないほどに焦れて震えた指先が、痴態に反応した己の核心を撫でる。
すかさずツナにも同じ刺激を返せば、呻いた白い喉が反れた。
──されたいようにしてみろ。
真っ赤に震える耳元で囁いた言葉。理解したツナは、最早欲望しか映さなくなった瞳を閉じる。
「っふ……んぁ…」
己に絡む控え目な指先を真似てツナの屹立をなぞる度、見る見る深くなっていく息遣い。
足りないならば満たせばいい。求めるならば与えればいい。
影のように付き纏って、貰った分だけの愛撫を返せば、罠に嵌ったツナの遊戯は次第に激しさを増していった。
先端から流れているであろう液体は、放出されたばかりの湯に洗い流されて姿も見えない。
やがて耐え難い快感に負けて掌が脱力すると、連動して遠退いていく感覚が物足りないのか、ツナは啼いてもっと欲しいと強請った。
両手で触れるリボーン自身を必死に貫こうとするものの、上手く握ることもできない。
「…ぁ…っひぁ…あぁ…」
それでも熱烈な刺激の記憶を辿って先端を爪で引っ掻けば、一瞬遅れて戻ってきたそれに泣きながら首を振って悶える。
息を詰めて感じながらも、夢中になって自らの手を動かした。
そんな光景に、まるですぐ傍で恋人のマスターベーションを見ているような錯覚を覚える。
見たこともないほど乱れ切った綱吉に、リボーンは密かにほくそ笑むのだった。
「んぁ…、イ…きたっ……ぃ、」
「ククッ…どうぞ?」
「…ぁあっ…ゃっ、やぁっん…」
扱いても抉ってみても、思うように絶頂まで辿り着けないままとうとう嗚咽混じりに本格的に藻掻いて泣く綱吉。
そんな焦燥感に追われて何を思ったか、リボーンの双丘を撫で、触ったことも見たこともないその場所を探り当てた。
これにはリボーン本人も軽い衝撃を受け、その真意を図ろうと顔を覗き込む。
「何だよ、俺に挿れたいのか?」
クツクツと笑いが零れるのは、ツナにそんな欲求などないことを分かっているからだ。
実際その通りで、所謂『タチ』がしたいのかと問えばぽかんとして首を振る。
入口を遠慮がちにゆるゆると揉み解すだけで、実際にナカまで入る気はないのも知っている。
つまり綱吉はリボーンの言いつけを忠実に守っているに過ぎなかったのだ。
それならばと期待に応えて同じ処に触れてやれば、ヒクりと震えた感触が伝わってくる。
「っはぁん、…はやっ…く…、ほしっ…はぁン…いきた…っ、」
「そんなに挿れたいんならそうだな…、取り敢えず指突っ込んで前立腺でも探して解しゃあいいんじゃねえか?」
「……っ!?」
揶揄目的の言葉を、勝手に自らの欲望にすり替える。
実際には挿れていないツナのソコが想像のみで感じ、余計に伸縮して誘い込もうとするから面白い。
「初めてなんだからな、優しくしろよ?」
ああ、笑いが止まらない。
若干パニックになったツナは、からかわれていることに気付かないままオロオロと逡巡して、今にも泣き崩れてしまいそうだ。
その何とも加虐心をくすぐる表情と、解放されずに放置されたツナ自身が真っ赤に張り詰めるのと。
甲乙付けがたい、実に良い眺めである。
「お前いつも悦さそうな顔してるからな、期待してるぞ」
そこまで言うと、ツナの蕾から指を引いた。
信じられないとばかりに食い入るように見上げたままのツナは微動だにしない。
そうして停止したまま互いの出方を探る、そんな時間が過ぎた。
しかし当初は不安定に揺れていた表情は、見つめ合ううちに緩和するように融け出していく。
やがて僅かに求めるような仕草を見せた直後、結局は見惚れてしまうくらいの微笑みに落ち着いた。
改めて見つめ合うと直ぐこれだ。
ツナは言葉にするのを恥ずかしがるが、ならば好き好きと恋慕丸出しのこの状況は良いのだろうか。
あれほど泣いて愚図ったのが嘘のような。己の犯した罪も過ちも、何もかも赦されると錯覚させる眼差し。
この世で唯一自分だけが知る悦楽だった。
「リボ、…ン」
「もういい。解ったから後は感じてろ」
突き立てた指が粘膜の温度と同化していく。
ヒクつく薄い腹筋に魅せられて頬を寄せれば、そんな刺激にも嬌声が上がった。
不自然に力を込めたり不意に脱力したりと、落ち着きのなさが互いの皮膚を通して伝わってくる。
至近距離で奏でられる水音も、今度は流水音に隠されることなく耳に届いた。
「…んっ…めぇ…ゃあっ…見な、で…んっふ、」
濡れたままの下生えが、山を下った体液で汚されていく。その様子を楽しみながら笑いを堪えれば、零れてしまった吐息が屹立にぶつかった。
嬌声と共に、その瞬間ツナの全身が硬直したのが分かった。
「で?挿れるのと挿れられるの、どっちがいいんだ?」
喋る度に吐息で感じるのか、内股が断続的にビクつく。その度に薄い体毛が濡れていくのを見るのも気味が良い。
しかしながら、うねるように揺れる腰に持ち上げられる頭では、しっかりとツナの限界を汲み取っていた。
「…そ、な…こと…、」
「ツナ?」
アルコールと快感とどちらの効力か。さらに虚ろになってきた眼は、既に此方を上手く認識できていないようだ。
欲求を満たすことしか頭にないのか、気を抜くと何もかも捕られてしまいそうな、そんな危うい色香を匂わせている。
「……っぃ、………れて…」
抱く度に色を深めるのは身体という単純な循環だけではない。
ツナの存在それ自体が己の中で深く落ちていくのだ。
返事を待てたのは奇跡。
切れ長の目を見開いたリボーンは労いや励まし、睦言といった言葉も特にないまま、蕩け切ったナカを一気に貫いた。
頬では感じ取ることができなかった内壁の動きや熱が、自身を通してリアルに伝わってくる。
あまりの熱に、そこから融合するような感覚がした。
「はぁぁあっ…ん、…やぁんっ…り、ぼーンんっ、…も、と…ゆ、くりっ…」
汗と湯が混じり合ってツナの身体にハラハラと伝っていくのを何となしに見つめる。
上も下も閉じることを忘れた口から洩れる音を楽しんで。
ツナが、そして自分自身が求めるままに容赦なく突き上げて。
途切れ途切れに背中の痛みを訴えられれば、どこかで藻掻くように暴れていた両手を捕まえて思いきり体重を掛けて引っ張った。
「─!それ、やっ…だめぇ…っ」
繋がったまま体制を逆転させると、ツナは途端にイヤイヤと激しく首を振る。
騎乗位を促すといつも返ってくる反応だ。
それが痛いからとか、悦くないからと言うならば考えもするだろう。
自分とて一方的に弄って楽しむだけでなく、共に高まりたい気持ちはちゃんとある。
しかしその理由が、深く入って感じすぎるから嫌だなどと。そんなもので誰が止めてやるというのか。
「…ぃ、やぁあっ…ひっ、ん…」
溺れたように藻掻く裸体を抑えつけ、嫌がるように捻る腰に突き刺して。
悦楽の果てへ道ずれにしたくて。
何よりあれほど誘ったのならば我慢してもらわなければ。
大義名分を持つリボーンは、気の済むまで行為に耽った。
凍えていた身体は燃えるように熱い。
こちらまでフラ付いてきそうな熱気も冷めないまま、幾度となく愛し合っていた。
結局のところ、リボーンが危惧していた問題。つまり綱吉の翌日の業務はというと…。
「もう酒なんて飲まない」
「っせえ。飲んだのも誘ったのもお前の責任だ。さっさと仕事しやがれ」
一日ベッドから出られないものの、しっかりパソコンに向かわされるボスの姿があったとかなかったとか。
Fin...
→あとがき