REBORN!

□一撃必殺 temptation
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二、『疲れている時の誘い方』


ここ数日の身体的倦怠感を解消しようと一足先にボスの部屋を訪れ、一ヶ月前と何ら変わりない様子を無意識に確かめた。
空調を入れ、アイツが最近ハマっているというアロマなんてものを焚いてみる。
しかし、どこからともなくほんのりと香るそれにも、この焦燥感は拭えなかった。

そうして過ごしているうちに、やがて僅かな物音で部屋の主の入室を知った。
待ち人の帰宅に知らず胸が躍る。


ところがどうだ。
肝心の其奴はシャワーも浴びずに寝室に訪れ、そして此方を見るなりバタンと倒れ込んだ身体は、それっきり動かなくなってしまったではないか。

声を掛ける間もないくらいあっという間の出来事。
次いで聞こえてくる規則的な息遣いに、リボーンはこれ以上ないほどに眉を寄せた。

なんだこの展開は、非常にツマラナイ。



「おい」


暫くぶりに二人きりのはずがこの仕打ち。リボーンは眉間に深い皺を刻んだ。

先月、目の前の人物から請け負った仕事をこなす間、一体何を楽しみに帰って来たと思っているのだろうか。

sexだ。sexしかねえ。
そう大声で叫んで、微動だにしない体を揺り動かしたい衝動を、リボーンはそれでも必死に抑えていたのだった。


「ツナだからってマグロは許さねえぞ」


そうは言うものの、良く見るとツナの眼の下には薄いながらも明らかに隈ができている。
思い起こせば先ほどの報告時も、騒ぎ出す守護者に対していつもの突っ込みにキレ…と言うか、力強さが無かったような気がした。


「……ん……、」

「いっちょ前に疲れてんのか?」


微かにだがまだ意識は残っているらしく、蚊の鳴くような答えが返ってきた。
しかしだ、端からヤル気だった俺の可愛い一人息子はそれはそれは立派に育っていて、おまけに成長期と同時に反抗期なのか、どうやら大人しくしてはくれなそうなのである。

さてどうする。
リボーンは綱吉の欲求と自らの欲求を天秤に掛けた。



「…ん、りぼ……ねかせ…て…」

「仕方ねえな」


しかし残念ながら本気でお疲れモードの恋人に、何様俺様の異名を持つ彼とて、無理矢理手は出せず。
そんな一瞬の葛藤を経て、リボーンはクスリと小さく微笑んだあと、睡眠態勢のツナの脇に同じように寝転んだ。

床ずれの音と僅かな振動に薄っすらと眼を開けて反応するツナを、己の胸に閉じ込める。
ふわふわと居場所のない髪に指を絡めれば、険しかった顔が緩められてしまうのを自覚するのだった。


「…きもちい…、…」


眠りの泉に落ちる寸前で、僅かに保たれた意識がそう伝える。
空いた手で骨の浮き出た背中を撫でてやると、途中擽ったかったのか少しだけ体を硬くした。


「寝ないのか?」

「…ん……きもち…くて、…も、たぃな…」

「…そうか」


か細い反応は今にも消えてしまいそうだが、どうやらツナは眠いなりにも眠気と戦っているらしく、夢現のうやむやな境界線でそんなことを呟いた。


こんな些細なことが勿体ないと思うほど二人でいる時間が短い。
そういうことなのだろうか。

現に自分自身も不足していた何かを埋めるような、そんなどこか切ないような不安定な波紋が胸に広がっていく気がした。

撫でる度に指の間を擽る髪が、さらさらと柔らかく零れていく。
その度に何度も掬い上げて、撫でつけて。

寝てしまったのか、起きているのか、分からなくなっても。





「お前に会いたいから…帰って来たんだぞ?」



夜の帳が、自らも気が付かなかった奥底の小さな弱さを口にさせた。

会いたかった。
それは常ならばツナがしばしば使う表現であった。
自分とて戯れに口にしたことくらいはあるにはあるが、こうして打ち寄せる波のように抗うことなく自然と声に出てしまったのは、初めての経験だった。

逢いたいと、知らず募っていた気持ちが少しずつ満たされて、それでもまだ、満足することはできなくて。

切ない。



「声が聞きたいから、お前に、触りたいから」



薄く開いた唇に、自らのそれを重ねた。
そうっと触れるだけのキスに、物足りなさが隠せない。
本当はもっと深いところで、体温を感じながら繋がりたい。

背を撫でる掌は、ともすれば触れるべきでない箇所にまで熱を与えてしまいそうな衝動に耐えていた。



「馬鹿ツナ、起きたら覚えてやがれ…」



ツナが目を覚ました後の第一声を考えつつのその台詞とは裏腹に、リボーンの表情は穏やかなそれだった。
一人きりで冷えていた手の平が、体温を持った体に触れ、熱を帯びるその意味といったら。


「一ヵ月と一晩分、抱くからな」


広くない背中を撫で、敢えてその先を避けるその実、欲しくて欲しくて堪らない本音を言い訳に隠した。

柔らかい髪に指を絡め、リボーンはそうしてゆっくりと瞳を閉じたのだった。























(…ン、……リボーン…!)


闇一色の空が、薄く神聖な光を帯びる頃


(…あ?)

(いいよ、もう)


すぐ傍で惹かれ合う二人の、


(何がだ)


(だから…、その、……シよ?…アレ、)




秘め事。




(……オレだって、ちゃんと会いたかったんだからな)










Fin...

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