『少し、出掛けてくるから』


そう言って、兄さんはいつものように出掛けた。

本当は行ってほしくなかった。ナナリーを連れ戻しに行くんだってことくらい僕にだってわかる。
それを、僕にそのまま言わない訳も。

『待って、兄さん』
『どうした?』
『あの…えっと…』

ストレートに聞いたら折角の兄さんの気遣いを無駄にしてしまう。それに、僕も出来るなら口にしたくない。
兄さんの口から聞くなんてもっと嫌だ。

僕が何も言わないで俯いていると、兄さんはそっと髪を撫でてくれた。

『そんなに遅くならないようにするから』

『……うん』

何で安心できないんだろう。胸の奥がざわついてギュッと締め付けられたような感じ。

どうにもできなくて、困ったように兄さんは笑う。
困らせてごめんなさい。
もっと困らせてもいいかな。

2つの感情が渦巻いてるのがわかる。

だって僕は兄さんが幸せであってくれれば嬉しい。笑ってほしい。
でも、今兄さんを困らせられるのは僕だけ。それならこの特権にしがみつきたい。

結局のところ、僕の答えは一つだったんだけど。

『気をつけて。夕飯作って待ってるから』

精一杯の笑顔。兄さんが手放したくないと思ってくれるような良い弟にならなきゃ。



「やっぱりヴィンセントで助けに行った方が良かったかな」

自室のベッドで鳴らない携帯を握りしめてポツリと呟いてみる。
兄さんのためなら戦ってあげる。同じ運命を辿ってあげる。そう思うのに兄さんは僕を離れていってしまう。

ナナリーがいて、枢木スザクがいて、学園の生徒会の友人がいて、黒の騎士団がいて。

僕はその中のほんの一部。
ナナリーが帰ってきたら兄さんは僕をどうするだろう。いらなくなるかな。
いらないって言われたら嫌だとすがりついてみようかな。そうしたら、困った顔をしながら許してくれる?

騙されていたとしても構わない。
僕は、兄さんがくれた言葉を信じて自惚れることにする。

だって今は僕だけの兄さんだろ?

ねぇ、兄さん。今夜は僕の所に帰ってきてくれる?


僕にだけは嘘はつかないんでしょ?




.


一言感想頂けると手を叩いて喜びます♪



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ