箱庭の宴
□白々しいね
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「『ねぇ』『何でそっちに居るの』『君は僕の仲間だろう?』」
心底訳がわからない。
そんな風に問うてみせるのは
マイナス13組の球磨川禊くん。
『そうだね、自分は、禊くんの、仲間、だよ…』
「『じゃあ、』『どうして?』『何で?』」
『自分は、唯の、スキル持ちなだけ…』
「『だから、そっちに居るの?』『だから、』『君は、めだかちゃんの所にいるの?』」
禊くんの頭上は不思議マークでいっぱいだ。
ぽん、ぽん、ぽん、
次々と、なんで、どうして、などと言葉を続けていく。
だから、禊くんにきっぱりと言った。
『違うよ、』
「『違わないよね?』『君は、こっち側の筈だよ?』『だって、君は、』」
「『僕と同じ』『過負荷、だもんね?』」
ねぇ、そうだよね?
にこにこ笑って禊くんはいった。
私は、にこにこ笑えない。
別に、過負荷だからどうとか
禊くんが嫌いとかめだかちゃんが好きとか
そんなの、じゃなくて
そーいう事は、関係無いんだ。
唯、見ているだけしか、出来ない、その時が来るまで。
『過負荷、とか、異常、とか。そーいう話じゃない、自分は、ある目的の為に、見ているだけ。』
「『じゃあ、』『何でめだかちゃんの所にいるの!』『何で13組なの!』『君はマイナス13組に居るべきだ!』『きっと、』」
きっと、で禊くんは言葉を止める。
私の顔をみて、言葉を止めてしまった。
それをいい事に、私は言葉を発する。
『自分は、禊くんの仲間、だけど、味方でも敵でも、ない。それは、めだかちゃんに対しても、同じ』
「『訳分からない、』『なにそれ』『それって、』」
「『それって』『どっちにでも、いい顔したいだけじゃないの?』」
『…禊くん、ごめんね』
「『何に謝ってるの?』『謝るくらいなら、』『こっちに来てよ』」
『それは、出来ない。』
「『何でよ…』『何で?』」
『…なじみちゃん、の為』
空白の時間。
安心院なじみの名前を出すと
禊くんは、大きい目を見開いた。
「…何で、その名前が今出てくるの、」
『親友、だから』
「…じゃあ、僕達は親友じゃないの?」
『親友、だよ。』
「…『もういいよ』『わかった』」
「『とりあえず、』『この話は終わりにするよ』『ばいばい、息流ちゃん』」
くるり、と踵を返す禊くん
ひらりひらりと手を振って
とぼとぼ、と哀愁に満ちた背中が遠ざかる。
それを黙って見送っていると
少し、肩が震えてるのが分かった。
『でも、本当はね。一番は、禊くんの、為でも、あるんだよ』
ポツリ、呟いて自嘲する
親友を傷付けておいて、白々しい
自分はとてつもなく悪い偽善者の様だった。
去り際の禊くんみたいに
肩の震えが止まらなかった。
白々しいね
(恰好つけたまま去ろうと思ったけど、どうしても気になって影からこっそり覗く。彼女の嗚咽交じりの声が微かに聞こえた。)
(泣いたって、どうにもならないのに、涙だけが留まる事を知らず、去りゆく彼の背中も、この涙を止める術も、自分は持ち合わせていないの。)