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□奪われた自由と悲鳴
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見事に背中から川へ落ちた私は速度がかなり出ていたのか、お尻が底についてしまうくらい深く沈んだ。でもいつまで経ってもお尻に硬いジャリの感触はなく、逆に水面へと体が徐々に浮き始めた。あれそんな深かったの?と、不思議に思いつつも私は光の差す上を目指して水をかいた。


「ぷはっ…!はっ…はっ…」


顔を水面から出して息を肺いっぱいに吸った。目の前には今までいた土手は無く、360゜全部水だった。水ならまだいい。僅かに口内に入り込んだ水がしょっぱく、鼻孔に侵入する匂いは間違えようもない潮の香り。

え?川から海へ流された?うそ流され過ぎじゃね?



どれだけ辺りを見渡しても視界に入るのは『海』で。



少し先を泳いでも続いている海しか見えなくて。



ますます混乱していく私の思考を邪魔するのは水を吸った服や鞄で。



鞄の中に入ってるノートはもう書けないなと今心配しなくてもいい事を冷静に考えてたりで。



その間にも立ち泳ぎを続けているが、いずれ体力は無くなり溺れてしまう恐怖に息が乱れる。




…ダメだ。落ち着け私。
まずこういう時は服を脱ぐんだ。


小さい頃に親が通わせてくれたスイミングでたまにやっ
ていた着衣水泳が今役立つ。コーチありがとう!冷静に対処出来てるよ!


私はスニーカーと服を脱ぎ、キャミと下着姿になったら鞄の中身を貴重品以外全て出しスニーカーを入れた。衣服は重たくて溺れる原因になるからそこでサヨナラした。勿体無いけど死ぬよりマシだ。
斜め掛け鞄のベルトを一番短くして体にピッタリくっつけて、スニーカーで多少浮いた鞄を浮き袋にして平泳ぎとまではいかない犬掻き状態で目を凝らす。

落ち着いて水面を泳いでいると、ボートのような小舟がそう遠くない距離にあるのが見えた。
私は人が居ると安心して声をかけながら小舟へ向かった。


「すいませーん!すいまっせーーん!」


小舟へ着くと返事が返ってこない理由がわかった。誰も居ないじゃないか。なんだかバカみたいだ。恥ずかしい。
とりあえず小舟へ上がると中には俗に言う小さな宝箱みたいな木箱が一つだけあった。

こんなモンあったって岸に着くかよ!!オール置いとけオールを!!

夕闇が溶け漆黒の空に輝く星たちの下で空腹感満載の私はイライラした。













「お腹すいた…」


あれから5時間経った今。未だに大きな海原を私一人乗せた小舟はポツリと漂っ
ていた。
何で海にいるのか、どうやったら家に帰れるのか、荷物の確認とか服の回収とかしていたが当初とあまり変わりはなかった。
ズボンやTシャツはどこかへ行ってしまったが幸い上着は水を吸わないナイロンだったため水面に漂っていたので干し、先程乾いたから再び羽織った。
携帯は水没死したが時計は防水加工のために生まれたような○ショックさんなので無事時間を刻んでくれている。財布の中身やICカードを干しながら、きっとどこかの岸には着くと思った。

…が、5時間経った今。私は喉の渇きに焦りを感じ始めております。

学校から真っ直ぐ家に帰る途中だったため何も持っておらず、お腹もついさっき峠を越し落ち着いている。


「の…飲み物とか…入ってないかな…」


私は唯一船に乗っていた木箱をソッと開けた。意外にも中身は果物で私はテンションが上がった。
中身を取り出し近くで良く見ると私は驚きのあまり果物を落としそうになった。色がおかしい。黄色と黒の危険区域みたいなマーブル柄で、明らかに食べちゃいけなそうだった。普段の私なら、ぎゃっ気持ち悪い!ポイッと投げ捨てているが。
でも私、相当お腹すいてたのかな。



完食しました。



良く
言うとみずみずしい、素直に言うとマズい果物を私はペロリと胃に入れた。
するといくらか喉の渇きも空腹も紛れた私は妙な安心感を抱き、今度は疲労による眠気が襲ってきた。


「まぁ大丈夫か…何だかんだで漁船とかに見つかるでしょ…」


私は鞄を枕に目蓋を閉じた。









明日から始まる辛い日々を少しも考えずに。
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